採用にAIをどう使うか? スキルを公平に見るための進め方と注意点

執筆:嵐 保憲更新 2026-10-25制度の最終確認 2026-10-25出典 6件

この記事の結論

採用でAIを使うときは、職務に必要な能力から評価の基準を決め、AIの結果は人の判断を補う材料にとどめ、候補者への説明と個人情報の扱いを先に整えると、公平さと効率を両立しやすくなります。AIは人の思い込みを減らす助けになる一方で、使い方によっては偏りを広げることもあるためです。

この記事でわかること

  • 採用の各段階で、AIがどう役に立つか
  • AIを使うときに気をつけたい公平性・説明・個人情報の観点
  • EUのAI法で、雇用の分野がどう扱われているか

採用の判断に、なぜAIが注目されているのですか?

書類選考や面接は、面接官の経験や印象に頼る部分が大きい工程です。同じ候補者でも、面接官によって評価が分かれることがあります。出身校、話し方、自分との共通点など、職務と関係のない要素に、知らないうちに引きずられることもあります。

AIは、決めた基準に沿って大量の書類を同じ物差しで読み、評価の材料をそろえることが得意です。人事担当者が事務作業に追われる時間を減らし、候補者との対話に時間を使えるようにする効果も期待されています。

採用のどの段階で使えますか?

① 求人票と評価基準を作る

職務の内容から、必要な知識・経験・行動の特徴を書き出し、求人票と評価の基準に落とし込む作業を、生成AIに手伝わせることができます。基準が言葉になっていると、面接官による評価のばらつきを抑えやすくなります。

② 書類を読み、基準との対応を整理する

応募書類を基準に照らして読み、どの経験がどの基準に当たるかを整理させます。合否を決めさせるのではなく、人が判断するための下ごしらえとして使うのが向いています。

③ 実務に近い課題で能力を見る

技術職ならプログラミングの課題、営業職なら商談を想定した対話の課題など、職務に近い場面で能力を確かめる方法があります。AIは課題の作成や、回答を基準に沿って整理する作業を補えます。

④ 面接の準備と記録

面接の質問を基準に沿って用意したり、候補者の同意を得たうえで面接の記録を要約したりする使い方です。面接官が質問と評価に集中しやすくなります。

気をつけたい点は何ですか?

公平性:過去の偏りを引き継がない

「自社で活躍した社員の経歴を学習させ、似た人を探す」という方法は、わかりやすい反面、注意が必要です。過去の採用や評価に偏りがあれば、AIはその偏りも学んでしまいます。性別や年齢の項目を除いても、居住地や経歴の書き方など、別の情報から同じ偏りが生じることがあります。

厚生労働省は、公正な採用選考の基本として、応募者の基本的人権を尊重し、適性と能力に基づいて判断することを示しています。本籍・出生地や家族、住宅の状況など本人に責任のない事項や、宗教・支持政党など思想・信条にかかわる事項は、把握すること自体が就職差別につながるおそれがあるとされています。AIに読み込ませるデータや、評価の項目にも同じ考え方を当てはめます。

説明:なぜその評価なのかを示せるようにする

候補者から評価の理由を問われたときや、社内で判断を見直すときに、説明できる形にしておく必要があります。AIには、評価の根拠を基準の項目ごとに示させます。理由を示せない評価は、判断に使わない決まりにしておくと安心です。

総務省と経済産業省の『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』は、AIを使う事業者にも、公平性、透明性、アカウンタビリティ(説明の責任)などの共通の指針を示しています。

個人情報:目的を示し、必要な範囲で扱う

応募書類には、多くの個人情報が含まれます。職業安定法第5条の5は、求職者の個人情報を、業務の目的の達成に必要な範囲内で、目的を明らかにして集め、その目的の範囲内で保管・使用することを求めています。

生成AIのサービスに応募書類を入力する場合は、個人情報保護委員会の注意喚起も参考になります。利用目的の範囲内かを確かめること、入力した情報が学習などに使われないかを事前に確かめることが求められています。不合格になった方の情報をいつまで保管し、どう消去するかも決めておきます。

感情や性格の推定には慎重に

面接の映像や音声から、表情や声の調子を分析して感情や性格を推し量る技術があります。こうした使い方は、職務の能力とのつながりを説明しにくく、候補者の不安も招きやすい領域です。後で触れるとおり、EUでは職場での感情認識のAIの使用が原則として禁じられています。

EUのAI法では、採用はどう扱われていますか?

EUのAI法(Regulation (EU) 2024/1689)は、リスクの大きさに応じてAIへの規制を変える仕組みです。日本企業でも、EUの拠点での採用や、EU域内の人を対象にした採用でAIを使う場合には関係します。

  • 高リスクの分野:附属書Ⅲは、雇用・労務管理の分野を高リスクに挙げています。応募者の募集や選考に使うAI(求人広告の配信先を絞る、応募書類をふるい分ける、候補者を評価するなど)や、昇進・解雇・業務の割り当て・働きぶりの監視などの判断に使うAIが含まれます。ただし、この分野で使うAIのすべてが高リスクになるわけではありません。
  • 使う側の義務:高リスクのAIを職場で使い始める前に、雇用主は労働者の代表と対象の従業員に知らせることが定められています(第26条第7項)。人に関する判断に使う場合は、その人にAIを使っていることを知らせる義務もあります(第26条第11項)。
  • 適用の時期:高リスクのAIに関する主な義務は、当初2026年8月2日から適用される予定でした。2026年7月に施行されたRegulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI)により、附属書Ⅲの高リスクのAIについては2027年12月2日に延期されています。
  • 禁止されている使い方:職場や教育の場で人の感情を推し量るAIの使用は、医療や安全の目的を除いて禁止されています(第5条第1項(f))。この禁止は2025年2月2日から適用されています。

日本の採用にそのまま当てはまる規制ではありませんが、採用でAIを使うときにどこに注意すべきかを考える物差しとして参考になります。

進めるときの手順は?

  1. 対象を決める:書類の整理、面接の準備など、AIに手伝わせる工程を一つ選びます。
  2. 基準を言葉にする:職務に必要な能力から評価の項目を決め、職務に関係のない項目を除きます。
  3. AIの役割を決める:AIは整理と根拠の提示まで、合否の判断は人、と線を引きます。
  4. 候補者に伝える:何の目的でAIを使い、個人情報をどう扱うかを募集の段階で示します。
  5. 偏りを確かめる:性別や年齢層などで通過率に大きな差が出ていないか、定期的に確かめます。
  6. 記録を残す:基準、AIの設定、判断の理由を記録し、見直しに使います。

まとめ

AIは、採用の基準をそろえ、書類の整理や面接の準備を軽くし、人事担当者が候補者との対話に時間を使えるようにする助けになります。その一方で、過去の偏りを引き継いだり、説明できない評価を生んだりするおそれもあります。職務に必要な能力から基準を決め、判断は人が持ち、候補者への説明と個人情報の扱いを整える。この三つを押さえることが、公平で納得感のある採用につながります。

関連するひな形・ガイド・用語

よくあるご質問

QAIに書類選考を任せてもよいですか?

AAIの評価だけで合否を決めるより、人が確かめて判断する形が向いています。評価の基準と、AIの結果をどう使うかを事前に決め、偏りがないかを定期的に確かめます。

QAIを使っていることを候補者に伝える必要はありますか?

A日本では、利用目的を明らかにして個人情報を扱うことが求められています。EUで高リスクのAIを人に関する判断に使う場合は、その人に伝える義務も定められています。国内の採用でも、何にAIを使うかを募集の段階で示しておくと、信頼につながります。

Q面接の録画から、AIで感情や性格を読み取ってよいですか?

A慎重に考える必要があります。EUのAI法は、職場での感情認識のAIの使用を、医療や安全の目的を除いて禁じています。国内でも、職務に関係のない情報で判断しないという公正な採用の考え方に照らして検討します。

この記事に出てくる用語

次の一歩

出典

  1. 厚生労働省『公正な採用選考の基本』
  2. 厚生労働省 新潟労働局・ハローワーク『職業安定法第5条の5(求職者等の個人情報の取扱い)』
  3. 個人情報保護委員会『生成AIサービスの利用に関する注意喚起等』(令和5年6月2日)
  4. Regulation (EU) 2024/1689(EU AI法)
  5. Regulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI)
  6. 総務省・経済産業省『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』(令和8年3月31日)

最終確認日:2026-10-25