AIと一緒に働く力を育てる 今日から始める3つのリスキリング
この記事の結論
AIと一緒に働く時代のリスキリングは、①AIを使いこなす力、②課題を見つけて仮説を立てる力、③人と信頼を築く力、の3つを伸ばすのが近道です。どれも特別な学校に通わなくても、毎日の仕事の中で少しずつ育てられます。
AIの進歩を見て、「自分の仕事はこれからどう変わるのだろう」と感じる方は多いと思います。仕事の中身が変わるのは確かですが、それは新しい力を伸ばす機会でもあります。この記事では、国の指針や国際的な調査をもとに、これから伸ばしたい3つの力と、その育て方を紹介します。
この記事でわかること
- AIの広がりで、求められる力がどう変わりつつあるか
- これから伸ばしたい3つの力と、日々の仕事での育て方
- 会社として社員の学びを支えるときのヒント
リスキリングとは何ですか?
リスキリングとは、仕事の変化に合わせて、新しい知識や技能を身につけ直すことです。趣味の学び直しとは違い、仕事で成果を出すことを目的にしている点が特徴です。
世界経済フォーラムの「仕事の未来レポート2025」では、企業は、働く人の中心的なスキルの39%が2030年までに変わると見込んでいます。今後大きく伸びるスキルの1位には「AIとビッグデータ」が挙がりました。一方で、企業が重視するスキルの1位は「分析的思考」で、「レジリエンス・柔軟性・機敏性」「リーダーシップと社会的影響力」「創造的思考」が続いています。
この結果からは、AIの使い方だけでなく、考える力や人と関わる力も同じように大切にされていることが読み取れます。
国内でも、経済産業省とIPA(情報処理推進機構)が定める「デジタルスキル標準」に、生成AIに関する記載が加えられています。2024年7月には、個人が業務で生成AIを活用する例などが補記されました。
1つ目の力:AIを使いこなす力
最初の力は、AIを道具として上手に使う力です。中身は大きく二つあります。
① 目的を言葉で伝える力
AIは、頼み方によって答えの質が大きく変わります。何のために、誰に向けて、どんな形で欲しいのかを具体的に伝えると、期待に近い答えが返ってきます。この頼み方の工夫はプロンプトエンジニアリングとも呼ばれます(詳しくは関連記事をご覧ください)。
② 答えを確かめる力
AIは、もっともらしい誤りを出すことがあります。この現象をハルシネーションといいます。数字や固有名詞、日付、法令などは、原典や公的な情報で確かめる習慣をつけることが大切です。データの偏りや、話の筋が通っているかを見る目も、この力に含まれます。
日々の育て方
- 毎週一つ、AIに任せる作業を決めて試す
- うまくいった頼み方を、自分用のメモやチームの共有資料に残す
- AIの答えのうち、確かめて直した箇所を振り返る
2つ目の力:課題を見つけて仮説を立てる力
AIは、与えられた問いに答えるのは得意です。けれども、「そもそも何を問うべきか」を決めるのは、いまも人の役割です。
① 「なぜ」を問う力
顧客の不満の裏にある本当の困りごとは何か。売上が伸びない根本の理由はどこにあるのか。こうした問いを立てられると、AIの分析を的確に使えます。問いが曖昧なままでは、どれだけ優れたAIでも、的外れな答えしか返せません。
② 仮説を立てて試す力
過去のデータだけでは見えない可能性に目を向け、「こうすればうまくいくのではないか」と仮説を立てる力です。仮説を立てたら、AIで情報を集めたり、案を比べたりして、素早く確かめます。この繰り返しの速さが、AIと一緒に働く大きな利点です。
日々の育て方
- 依頼された仕事について、「何のための仕事か」を一文で書いてから取りかかる
- 会議の前に、自分なりの仮説を一つ用意して臨む
- AIに反対の立場から意見を出させ、仮説の弱いところを探す
3つ目の力:人と信頼を築く力
AIが文章や資料を作る手助けをしてくれるほど、人にしかできない関わりの価値が高まります。
① 共感して聴く力
相手の言葉の奥にある不安や期待に気づく力です。顧客との打ち合わせでも、チームの中でも、相手の気持ちをくみ取って応えることが、信頼の土台になります。
② 人をまとめ、決める力
立場の違う人たちの意見を調整し、方向性を決め、その結果に責任を持つ力です。AIは選択肢を出す手助けはできますが、決めて責任を引き受けるのは人です。
日々の育て方
- 打ち合わせの後に、相手が本当に気にしていたことを一行で書き留める
- AIで作った資料も、最後は自分の言葉で相手に合わせて手直しする
- チームで「AIで何が楽になったか」を話し合う場をつくる
会社として何ができますか?
個人の努力だけでなく、会社が学びの場を用意すると、リスキリングはぐっと進みやすくなります。
- 使ってよい環境を用意する。 会社として認めたAIの道具と、使い方のルールがあると、社員は安心して試せます。
- 学ぶ時間を業務として認める。 短い時間でも、学ぶことを仕事の一部として扱うと続きやすくなります。
- うまくいった例を共有する。 部署ごとの使い方を集めて紹介すると、ほかの社員の参考になります。
- 公的な支援を確かめる。 厚生労働省の人材開発支援助成金には、新しい分野の知識を身につける訓練を支える「事業展開等リスキリング支援コース」や、デジタル人材の育成などを支える「人への投資促進コース」があります。
総務省の令和8年版情報通信白書によると、生成AIを「積極的に活用する」または「領域を限定して利用する」方針の日本企業は68.9%にのぼります。規模別では大企業が74.0%、中小企業が58.1%で、中小企業の伸びが目立ちます。使う会社が増えるほど、使いこなす人を育てる取り組みが成果の差につながっていきます。
AIは「相棒」として迎える
技術の大きな変化は、これまでも仕事の形を変えてきました。そのたびに人は新しい道具を使いこなし、新しい役割を生み出してきました。
AIも同じように、私たちの力を引き出してくれる相棒として迎えられます。AIに任せられることは任せ、空いた時間で人にしかできない仕事に力を注ぐ。その積み重ねが、これからの働き方を形づくっていきます。
関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
Qリスキリングは、まず何から始めればよいですか?
A毎日の仕事の中で、AIに任せられそうな作業を一つ選んで試すところから始めるのがおすすめです。使いながら、うまくいった頼み方や確かめ方を記録していくと、自然に力がつきます。
Qプログラミングを学ぶ必要はありますか?
A多くの職種では、プログラミングを学ばなくてもAIを十分に活用できます。まずは目的を言葉で伝える力と、答えを確かめる力を身につけるのが近道です。業務の自動化まで進めたくなった段階で、必要に応じて学ぶとよいでしょう。
Q会社として社員のリスキリングを支援するとき、使える制度はありますか?
A厚生労働省の人材開発支援助成金には、新しい分野の知識を身につける訓練を支える「事業展開等リスキリング支援コース」などがあります。支給の条件は年度ごとに見直されるため、最新の案内や管轄の労働局で確かめてください。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- World Economic Forum「The Future of Jobs Report 2025」Skills outlook
- IPA プレスリリース「DXを推進する人材向けの『DX推進スキル標準』に生成AIに関する補記などを追加」(2024年7月8日)
- IPA「AI利活用のための人材育成」
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの活用方針等
- 厚生労働省「人材開発支援助成金」
最終確認日:2026-10-25