海外の動き:EU・米国・英国・中国と国際的な枠組みの現在地
この記事の結論
EUはAI法を段階的に適用しており、2026年7月の改正で高リスクAIの義務を2027年12月・2028年8月へ延期しました。米国は連邦で規制を抑えつつ州法の統一を探り、英国は既存の規制当局で対応し、中国は生成AIの届出や表示の義務を設けています。日本企業は、海外での提供の有無を確かめ、OECD・広島AIプロセス・ISO/IEC 42001の共通の考え方を社内ルールの土台にすると対応しやすくなります。
この記事でわかること
- EU AI法の適用の日程と、2026年の改正で変わった点
- 米国・英国・中国の、規制の考え方の違いと最近の動き
- OECD AI原則・G7広島AIプロセス・ISO/IEC 42001を、社内の取り組みにどう生かすか
このページでは、海外の主な国・地域と国際的な枠組みのAI制度を、2026年10月25日時点の一次情報にもとづいて整理します。制度ごとに「いまの状況」「日本企業への影響」「やること」の順でまとめています。
EU AI法(Regulation (EU) 2024/1689)
いまの状況
EU AI法は2024年8月1日に発効し、段階的に適用されています。欧州委員会によると、禁止されるAIの使い方とAIリテラシーの規定は2025年2月2日から、汎用目的AIモデル(幅広い作業に使える基盤モデル)の義務は2025年8月2日から、法律の大部分は2026年8月2日から適用されています。AIをリスクの大きさで分け、リスクが大きいほど厳しい義務を課す考え方(リスクベースアプローチ)をとっています。
2026年7月24日に官報に掲載された簡素化のための改正(Regulation (EU) 2026/1744、Digital Omnibus on AI)は、7月27日に発効しました。主な変更は次のとおりです。
- 高リスクAIの義務の延期:附属書Ⅲに当たる分野(雇用・教育など、単体で使うAI)は2027年12月2日、附属書Ⅰに当たる製品の安全部品として使うAIは2028年8月2日から適用
- 透明性と表示(第50条):大部分は2026年8月2日から適用。生成AIの出力に機械で読める印を付ける義務は、2026年8月2日より前に提供が始まったシステムについて、4か月の猶予(2026年12月2日まで)
- AIリテラシー(第4条):社員のAIリテラシーの向上を支える措置を求める形に変更
- 中小企業への配慮:簡素な技術文書などの対象を、中小企業に加えて小規模な中堅企業に広げる
- 禁止の追加:本人の同意のない性的な画像などを作るAIの禁止を追加(欧州委員会によると2026年12月から適用)
日本企業への影響
EU AI法は、EUの域内で提供・利用されるAIが対象です。日本の会社でも、EUの顧客向けにAIを組み込んだ製品やサービスを提供する場合は、対象になることがあります。採用や評価にAIを使う仕組みをEUで提供する場合は、高リスクAIに当たるかの確認が役立ちます。
やること
- EU向けの製品・サービスにAIが含まれるかを一覧にし、自社が提供者か導入者かを確かめます
- チャットボットや生成画像を使う場合は、AIであることの伝え方を決めます
- 高リスクAIに当たる可能性があれば、2027年12月を目安に準備の計画を立てます
米国(連邦の大統領令・NIST AI RMF・州法)
いまの状況
連邦では、2025年1月の大統領令14179(AI分野での米国の主導を妨げる障壁の除去)を起点に、規制を抑えて開発を後押しする方針がとられています。2025年7月23日には、90を超える連邦の施策を示した「America's AI Action Plan」が公表されました。
2025年12月11日の大統領令14365は、州ごとにAI法がばらばらに定められることを避ける統一の枠組みを掲げ、司法省に州法の訴訟を担う作業部会を置くことなどを定めています。2026年3月20日には、議会に向けた立法の提言(National Policy Framework)が公表されました。2026年10月時点で、AIを横断的に規制する連邦法は成立していません。
2026年6月には、高度なAIモデルの公開前に、開発者が任意で政府に評価の機会を提供する枠組みなどを定めた大統領令が出されています。2026年9月29日の大統領令では、連邦の行政機関の文書で「Artificial Intelligence」に代えて「Super Intelligence」の語を使うことが定められました。企業への新しい義務は示されていません。
NIST(米国国立標準技術研究所)のAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF 1.0、2023年1月)は任意の枠組みで、Action Planにもとづき改訂が進められています。
州では、カリフォルニア州が2025年9月29日に、大規模なAIモデルの開発者に安全の枠組みの公表や重大な事故の報告を求める法律(SB 53)を定めました。コロラド州は2026年5月14日に、2024年のAI法に代わる法律(SB26-189)を定め、2027年1月1日以後の重要な判断にAIを使う場合の通知や記録を求めています。
日本企業への影響
米国では、連邦の方針と州法の両方を見る必要があります。米国で採用・与信などの判断にAIを使う場合は、州法の通知の義務などが関わることがあります。
やること
- 米国の事業でAIを使う州と用途を確かめます
- 取引先とリスク管理を話すときは、NIST AI RMFの4つの機能(統治・把握・測定・管理)を共通の言葉として使えます
英国
いまの状況
英国は、AIだけを対象にした横断的な法律を設けず、既存の分野ごとの規制当局が5つの原則(安全性、透明性と説明可能性、公平性、説明責任、異議申し立てと救済)を当てはめる方針を2023年3月の白書で示しました。2025年1月13日には50の提言を含む「AI Opportunities Action Plan」が公表され、2025年2月14日にはAI Safety InstituteがAI Security Instituteに改称されています。
2026年5月13日の国王演説では、AIを対象にした法案は示されなかったと報じられています(※ 英国政府の資料での確認は要確認)。
日本企業への影響
英国で事業を行う場合は、金融・医療・個人データなど、分野ごとの規制当局の指針を確かめることになります。
やること
- 英国で関わる分野の規制当局が公表するAIの指針を確かめます
中国
いまの状況
中国では、国家互联网信息办公室など7つの機関による「生成式人工智能服务管理暂行办法」(生成AIサービスの管理の暫定弁法)が2023年8月15日に施行されました。中国の国内で一般に向けて生成AIサービスを提供する事業者に、学習データの適法な取得、利用者の情報の保護、安全評価や届出などを求めています。国外から中国の国内へ提供されるサービスにも触れています。
2025年9月1日には「人工智能生成合成内容标识办法」(AIで生成・合成した内容の表示の規定)と、表示の方法を定めた強制の国家標準が施行され、生成物への表示が求められています。2026年1月1日には、AIの安全な発展に関する条文を加えた改正サイバーセキュリティ法が施行されました。
日本企業への影響
中国の国内で一般向けに生成AIサービスを提供する場合は、届出や表示の対応が必要になります。社内だけで使う場合は暫定弁法の対象外とされていますが、データの国外への移転などは別の規制が関わります。
やること
- 中国で提供するサービスに生成AIが含まれるかを確かめ、現地の専門家に確認します
OECD AI原則
いまの状況
OECD AI原則は2019年5月に採択され、生成AIの広がりを受けて2024年5月に改定されました。包摂的な成長、人権と民主的な価値の尊重、透明性と説明可能性、堅牢性・セキュリティ・安全性、説明責任の5つの原則を示しています。日本はこの改定の閣僚理事会で議長を務めました。
日本企業への影響
各国の制度の多くが、この原則と共通の考え方に立っています。法的な義務はありませんが、海外の取引先との共通の言葉になります。
やること
- 社内のAIの利用方針に、5つの原則に当たる項目があるかを確かめます
G7広島AIプロセス
いまの状況
広島AIプロセスは、日本がG7の議長国として2023年5月に立ち上げ、2023年12月に高度なAIシステムを対象にした初めての国際的な政策枠組み(包括的政策枠組み)で合意しました。国際指針と、開発者向けの国際行動規範を含みます。2024年5月には49か国・地域が参加するフレンズグループが立ち上がりました。2025年2月7日には、行動規範への取り組みを企業が公表する「報告枠組み」の運用がOECDのサイトで始まっています。
日本企業への影響
報告枠組みには日本の企業も参加しています。主にAIの開発者向けの枠組みですが、取り組みの項目(リスクの評価、透明性、ガバナンスなど)は、AIを使う会社の確認項目としても参考になります。
やること
- AIを提供している取引先が報告枠組みに参加しているかを、選ぶときの確認項目に加えます
ISO/IEC 42001
いまの状況
ISO/IEC 42001は、AIマネジメントシステム(AIMS)の要求事項を定めた国際規格で、2023年12月に発行されました。AIを使った製品やサービスを提供・利用する組織を、規模や業種にかかわらず対象にしています。日本ではJIS Q 42001(2025年)として規格化され、情報マネジメントシステム認定センターがAIMS適合性評価制度を運営しています。
日本企業への影響
認証は任意です。海外の取引先からAIの管理体制の説明を求められたとき、取り組みを示す手段の一つになります。ISMS(ISO/IEC 27001)と共通する考え方が多い規格です。
やること
- すでにISMSを運用している場合は、その仕組みにAIの項目を加えることから検討します
年表
| 時期 | 出来事 | 区分 |
|---|---|---|
| 2019年5月 | OECD AI原則の採択 | 国際 |
| 2023年1月 | NIST AI RMF 1.0の公表 | 米国 |
| 2023年3月 | 英国がAI規制の白書を公表 | 英国 |
| 2023年5月 | G7広島AIプロセスの立ち上げ | 国際 |
| 2023年8月15日 | 中国の生成AIサービスの暫定弁法の施行 | 中国 |
| 2023年12月 | 広島AIプロセス包括的政策枠組みの合意、ISO/IEC 42001の発行 | 国際 |
| 2024年5月 | OECD AI原則の改定、広島AIプロセス フレンズグループの立ち上げ | 国際 |
| 2024年8月1日 | EU AI法の発効 | EU |
| 2025年1月 | 米国 大統領令14179、英国 AI Opportunities Action Plan | 米国・英国 |
| 2025年2月2日 | EU AI法の禁止とAIリテラシーの規定の適用 | EU |
| 2025年2月7日 | 広島AIプロセスの報告枠組みの運用開始 | 国際 |
| 2025年7月23日 | 米国 America's AI Action Plan | 米国 |
| 2025年8月2日 | EU AI法の汎用目的AIモデルの義務の適用 | EU |
| 2025年9月1日 | 中国のAI生成・合成内容の表示の規定の施行 | 中国 |
| 2025年9月29日 | カリフォルニア州 SB 53 | 米国 |
| 2025年12月11日 | 米国 大統領令14365(統一の枠組み) | 米国 |
| 2026年1月1日 | 中国の改正サイバーセキュリティ法の施行 | 中国 |
| 2026年3月20日 | 米国 議会への立法の提言 | 米国 |
| 2026年5月14日 | コロラド州 SB26-189 | 米国 |
| 2026年7月27日 | EU AI法の改正(2026/1744)の発効 | EU |
| 2026年8月2日 | EU AI法の大部分と透明性の規定の適用 | EU |
| 2026年12月2日 | EU 既存の生成AIの表示の猶予の終了 | EU |
| 2027年1月1日 | コロラド州 SB26-189の適用 | 米国 |
| 2027年12月2日 | EU 高リスクAI(附属書Ⅲ)の適用 | EU |
| 2028年8月2日 | EU 高リスクAI(附属書Ⅰ)の適用 | EU |
更新の履歴
- 2026-10-25:作成(制度の最終確認日 2026-10-25)
よくあるご質問
Q日本の会社にもEU AI法は関係しますか?
AEU AI法は、EUの域内で提供・利用されるAIを対象にしています。日本の会社でも、EUの顧客向けにAIを組み込んだ製品やサービスを提供する場合や、AIの出力がEUで使われる場合は、対象になることがあります。取引の内容ごとに、自社が提供者か導入者かを確かめるとよいです。
QEU AI法の高リスクAIの義務は、いつから適用されますか?
A2026年7月27日に発効した改正(規則(EU)2026/1744)で延期され、附属書Ⅲに当たる分野(雇用や教育など)は2027年12月2日、附属書Ⅰに当たる製品の安全部品は2028年8月2日からとされています。
Q米国には連邦のAI規制法がありますか?
A2026年10月時点で、AIを横断的に規制する連邦法は成立していません。連邦政府は大統領令と、議会への立法の提言(2026年3月)で、州法の乱立を避ける統一の枠組みを求めています。州ではコロラド州やカリフォルニア州などが独自の法律を定めています。
QISO/IEC 42001の認証は取ったほうがよいですか?
A認証は任意です。海外の取引先からAIの管理体制の説明を求められる場合や、すでにISMSを運用している場合は、取り組みを示す手段の一つになります。まずは規格の考え方を社内のルールに取り入れ、必要に応じて認証を検討する進め方も考えられます。
関連するガイド
出典
- Regulation (EU) 2026/1744(Digital Omnibus on AI、EUR-Lex 官報)
- European Commission AI Act(Regulatory framework for AI)
- Executive Order 14179 Removing Barriers to American Leadership in Artificial Intelligence(govinfo)
- The White House: White House Unveils America's AI Action Plan(2025年7月23日)
- Federal Register: Ensuring a National Policy Framework for Artificial Intelligence(Executive Order 14365)
- The White House: President Donald J. Trump Unveils National AI Legislative Framework(2026年3月20日)
- The White House: Promoting Advanced Artificial Intelligence Innovation and Security(2026年6月)
- The White House: Fact Sheet: President Donald J. Trump Inaugurates The Era of Super Intelligence(2026年9月29日)
- NIST AI Risk Management Framework
- Colorado Division of Real Estate: SB26-189 Summary
- Governor of California: Governor Newsom signs SB 53(2025年9月29日)
- GOV.UK: A pro-innovation approach to AI regulation(白書)
- GOV.UK: AI Opportunities Action Plan(2025年1月13日)
- GOV.UK: Tackling AI security risks to unleash growth and deliver Plan for Change(2025年2月14日)
- IAPP: King's Speech signals diffuse UK digital policy agenda, but no AI bill(参考)
- 国家互联网信息办公室 生成式人工智能服务管理暂行办法
- 国家互联网信息办公室 人工智能生成合成内容标识办法
- China Daily(全国人民代表大会のサイト)China approves amendment to cybersecurity law
- OECD: OECD updates AI Principles(2024年5月)
- OECD.AI: OECD AI Principles
- 総務省 令和6年版 情報通信白書(安心・安全で信頼できる利用に向けたルール整備・適用と国際協調)
- 総務省 国際行動規範の「報告枠組み」運用開始(「広島AIプロセス」)(2025年2月7日)
- ISO/IEC 42001:2023 AI management systems
- 情報マネジメントシステム認定センター AIMS適合性評価制度の概要(英語)