AI事業者ガイドラインの読み方:AIを使う会社がやること
この記事の結論
AI事業者ガイドラインの最新は第1.2版(2026年3月31日、総務省・経済産業省)です。AIを使う会社は「AI利用者」として、共通の指針と第5部・別添5・チェックリストを中心に読み、その内容を社内の利用規程と運用に落とし込めば、全部を読まなくても実務の要点を押さえられます。
AI事業者ガイドラインは本編と別添を合わせると分量が多く、どこから読めばよいか迷いやすい資料です。この記事では、AIを「使う側」の会社に絞って、自社の立場の見分け方と、読む順番、社内ルールへの落とし込み方を整理します。
この記事でわかること
- AI事業者ガイドラインの性格と、第1.2版で改訂された主な点
- 自社が「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」のどれに当たるかの見分け方
- AI利用者として取り組むことと、社内ルールへの落とし込み方
AI事業者ガイドラインとはどのような資料ですか?
成り立ちと性格
AI事業者ガイドラインは、総務省と経済産業省が、それまでの3つのガイドラインを統合して2024年4月に策定した資料です。その後、2024年11月に第1.01版、2025年3月に第1.1版、2026年3月31日に第1.2版が公表されています。
本編では、このガイドラインを法的な拘束力のないソフトローと位置づけています。細かな規則を並べるのではなく、目指すゴールを示し、事業者が自主的に取り組む形です。また「Living Document(改訂を重ねる文書)」として、技術や社会の変化に合わせて更新していく方針が示されています。
AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)とは別の資料ですが、内閣府の「適正性確保に関する指針」のページでは、各府省庁のガイドラインの一覧の最初にこのガイドラインが挙げられています。AI法の考え方を実務に移すときの、身近な手引きと考えてよいです。
第1.2版で改訂された主な点
総務省・経済産業省が2026年3月に示した更新内容の資料によると、主な改訂点は次のとおりです。
- AIエージェント・フィジカルAIの追記:定義、便益、リスク、留意すべき事項、AIシステム・サービスの例を追加
- リスクの記載の見直し:リスクベースアプローチの説明の追記、リスクの更新や分類の見直し
- 主体区分の整理:AI開発者の定義の補足、主体ごとの役割の見直し
- 用語の整理:「学習」「推論」「データ」など、多義的な言葉の定義・表現の見直し
- 使いやすさの改善:経済産業省の「活用の手引き(案)」、総務省のチャットボットの用意
- 動向の反映:AI法や広島AIプロセスなど、国内外の動きを追記
本編では、AIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」、フィジカルAIを「センサ等で物理環境の情報を取り込み、ロボットなどを通じて現実世界に物理的に働きかけるシステム」という趣旨で定義しています。
自社はどの立場に当たりますか?
3つの主体区分
ガイドラインは、AIに関わる事業者を次の3つに分けています。
| 区分 | 本編の定義(要旨) | 例 |
|---|---|---|
| AI開発者 | AIシステムを開発する事業者(AIを研究開発する事業者を含む) | AIモデルを作る、ファインチューニング(追加学習)を行う |
| AI提供者 | AIシステムをアプリケーション・製品・既存システム・業務プロセスなどに組み込み、サービスとして提供する事業者 | AIを組み込んだ自社サービスを顧客に提供する |
| AI利用者 | 事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者 | 生成AIで文書作成や問い合わせ対応を行う |
なお、事業活動以外でAIを使う個人や、データを提供するだけの者は対象外とされています。
見分け方の手順
次の順に確かめると、自社の立場を整理しやすくなります。
- 社内の業務でAIを使っているか:使っていれば、AI利用者に当たります。多くの会社はここから始まります。
- AIを組み込んだものを社外に提供しているか:顧客向けのチャットボットや、AI機能を持つ自社製品があれば、AI提供者も兼ねます。
- モデルそのものを作ったり、追加学習したりしているか:していれば、AI開発者も兼ねます。
本編では、同じ事業者が複数の区分を兼ねる場合があると明記されています。第1.2版の更新資料では、たとえばコード生成AIの支援を受けてAIシステムを作り提供した場合は、AI利用者とAI提供者を兼ねるという整理も示されています。社内向けにAIを組み込んだ業務システムを自作する場合も、部署によって立場が変わることがあるため、部署単位で考えるとわかりやすいです。
AI利用者として何に取り組めばよいですか?
共通の指針(10項目)
全ての主体に共通する指針として、本編第2部に次の10項目が示されています。
人間中心/安全性/公平性/プライバシー保護/セキュリティ確保/透明性/アカウンタビリティ/教育・リテラシー/公正競争確保/イノベーション
AI利用者もこの10項目が前提になります。そのうえで、第5部に「AI利用者に特に重要な事項」がまとめられています。
第5部:AI利用者に関する事項
第5部の項目を、実務の言葉に置き換えると次のようになります。
| 項目 | 実務での意味 |
|---|---|
| 安全を考慮した適正利用 | 提供者が示す使い方の範囲で使い、重要な判断はAIに任せきりにしない |
| 入力データ・プロンプトに含まれるバイアスへの配慮 | 指示文や入力データに偏りがないかを意識する |
| 個人情報の不適切入力・プライバシー侵害への対策 | 個人情報を入力してよいかを事前に判断する |
| セキュリティ対策の実施 | アカウント管理や、社外秘情報の取り扱いを決める |
| 関連するステークホルダーへの情報提供・説明 | AIを使っていることを、必要に応じて顧客や取引先に伝える |
| 提供された文書の活用と規約の遵守 | 利用規約や提供者の説明資料を読み、守る |
第1.2版では、別添5(AI利用者向け)に、AIエージェントやフィジカルAIを使う場合は定期的に操作履歴を確認すること、出力が重大な影響を及ぼし得る場合は人間の判断を介在させる仕組みを設けること、意図しない情報漏えいに備えてデータを必要最小限にすることなどが追記されています。
なお、個人情報については、個人情報保護委員会が2023年6月に、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合は利用目的の範囲内かを十分に確認するよう注意を促しています。ガイドラインとあわせて確認しておくとよいです。
全部読まなくてよい読み方はありますか?
本編と別添の役割
本編は「なぜ取り組むか・何に取り組むか」、別添は「どのように取り組むか」を示す構成です。別添は本編と対応した解説書になっており、次のように分かれています。
- 別添1:AIに関する前提、AIによる便益とリスク
- 別添2:AIガバナンスの構築(経営層によるガバナンスの構築とモニタリング、事業者の取り組み事例)
- 別添3〜5:AI開発者向け/AI提供者向け/AI利用者向けの解説
- 別添6:「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」を参照する際の留意事項
- 別添7:チェックリスト(ワークシートも公表)
- 別添8:主体横断的な仮想事例(第1.0版の別添8が引き続き掲載されています)
- 別添9:海外ガイドライン等の参照先
AI利用者が読む順番
AI利用者に当たる会社は、次の順で読むと効率的です。
- 本編の概要で全体像をつかむ
- 本編第2部の共通の指針と第5部を読む
- 別添5(AI利用者向け)で具体的な留意点を確かめる
- 別添7のチェックリストで自社の状況を点検する
- ガバナンスの体制を考える段階で、別添2を読む
これからAIガバナンスに取り組む会社向けに、経済産業省は「活用の手引き(案)」を公表しています。総務省のチャットボットでも、立場や知りたい事項を選んで該当箇所を探せます。最初の入口として使うとよいです。
社内ルールにどう落とし込めばよいですか?
ガイドラインの内容は、そのまま社内に配っても使われにくいものです。次の手順で、自社の言葉に置き換えます。
- 立場を書く:「当社は主にAI利用者に当たる。〇〇サービスではAI提供者も兼ねる」と規程の冒頭に書きます。
- 使ってよいサービスを決める:利用規約を確認し、入力データが学習に使われない設定かどうかを確かめたうえで、許可するサービスを一覧にします。
- 入力の禁止事項を決める:個人情報、取引先の秘密情報、未公開の財務情報などを具体的に挙げます。
- 人の確認を入れる場面を決める:社外への提出物、採用や評価など人に影響する判断、契約に関わる文書は、人が確認してから使うと定めます。
- AIエージェントの権限を決める:自動で操作や送信を行うAIを使う場合は、権限の範囲と、操作履歴を確認する頻度を決めます。
- 相談と報告の窓口を決める:問題が起きたときや、判断に迷ったときの連絡先を明記します。
- 見直しの時期を決める:ガイドラインの改訂に合わせ、年1回など見直す時期を定めます。
AI法との関係や、方針・体制の整え方は「AI法と企業の対応」もあわせてご覧ください。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
QAI事業者ガイドラインの最新版はどれですか?
A2026年10月25日時点の最新は、総務省と経済産業省が2026年3月31日に公表した第1.2版です。改訂は今後も続く前提の文書のため、使う前に経済産業省または総務省のページで版数を確かめてください。
Qガイドラインに従わないと罰則はありますか?
AAI事業者ガイドラインは、法的な拘束力のないソフトローと位置づけられています。罰則はありませんが、取引先や監査で取り組みを確認されることがあるため、自社に合う範囲で取り入れておくと安心です。
Q生成AIのサービスを使っているだけの会社は、どの立場ですか?
A事業活動でAIシステムやAIサービスを利用する事業者は「AI利用者」に当たります。ただし、AIを自社のサービスに組み込んで顧客に提供している場合は「AI提供者」も兼ねることになります。
Q全部読む時間がありません。どこを読めばよいですか?
AAI利用者の場合は、本編の概要、第2部の共通の指針、第5部(AI利用者に関する事項)、別添5(AI利用者向け)、別添7のチェックリストを優先するとよいです。経済産業省が公表している活用の手引き(案)も入口として役立ちます。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(PDF)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編 概要(PDF)
- 経済産業省 AI社会実装に関する検討会のページ(版の一覧)
- 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドラインの令和7年度更新内容(令和8年3月12日、PDF)
- 総務省 AIネットワーク社会推進会議
- 内閣府 人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)
最終確認日:2026-10-25