AI法と企業の対応:罰則のない法律で何をすべきか
この記事の結論
AI法は罰則のない基本法ですが、企業には「AIの活用に努めること」と「国の施策に協力すること」が求められています。実務では、国の指針とAI事業者ガイドラインを手がかりに、方針・ルール・体制・記録の4つを自社の規模に合わせて整えることが対応の中心になります。
AI法は「何かを禁止する法律」ではなく、「国がAIをどう進めるか」を定めた法律です。そのため、企業の側では「何もしなくてよい」と受け止められがちですが、法律の周りには指針や計画が順に整えられています。この記事では、条文と政府資料をもとに、企業が押さえておくとよい点を整理します。
この記事でわかること
- AI法の正式名称・施行日と、法律としての性格
- 企業(活用事業者)に求められていることと、関連する指針・計画の位置づけ
- 方針・ルール・体制・記録の4つで進める、実務での対応の手順
AI法とはどのような法律ですか?
正式名称と施行日
AI法の正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)です。報道などでは「AI推進法」とも呼ばれます。
内閣府の資料によると、2025年5月28日に成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されました。全面施行と同時に、内閣に人工知能戦略本部(本部長は内閣総理大臣、構成員は全ての国務大臣)が置かれています。
「基本法」としての性格
AI法は、国の施策の基本となる考え方を定める、いわゆる基本法の形をとっています。条文の構成は、総則(目的・基本理念・各主体の責務)、基本的施策、人工知能基本計画、人工知能戦略本部、附則です。
条文には罰則の規定がありません。事業者に何かを禁止したり、許可や届出を義務づけたりする規定もありません。そのかわり、国が「指針の整備」(第13条)や「調査研究と、それに基づく指導・助言・情報の提供」(第16条)を行うことが定められています。
つまり、法律そのものは枠組みにとどめ、具体的な行動の目安は、法的な拘束力のない指針やガイドライン(いわゆるソフトロー)で示すという組み合わせになっています。ソフトローとは、守らなくても罰則はないものの、社会や取引先から守ることを期待される規範のことです。
企業には何が求められていますか?
第7条「活用事業者の責務」
AI法第7条は、AIを使った製品・サービスを開発・提供する者や、AIを事業活動で活用しようとする者を「活用事業者」と定めています。会社の規模による区別はないため、生成AIを業務で使う会社は、一般にこれに当たると考えられます。
第7条が活用事業者に求めているのは、次の2点です。
- 自らAIを積極的に活用し、事業活動の効率化・高度化や新産業の創出に努めること(努力義務)
- 国や地方公共団体が実施する施策に協力すること
2つ目は「協力しなければならない」という書き方で、国民の責務(第8条、「努めるものとする」)よりも一段強い表現です。ただし、協力しなかった場合の罰則はありません。協力の中身としては、国の調査への回答や、指針を踏まえた自主的な取り組みなどが考えられます。
基本理念に書かれたリスクへの配慮
第3条第4項は、AIが不正な目的や不適切な方法で使われると、犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害などを助長するおそれがあると述べ、透明性の確保などの施策を講じるとしています。企業がAIを活用するときも、この基本理念に沿うことが前提になっています。
指針・計画・ガイドラインはどうつながっていますか?
AI法の周りには、次の3つの文書があります。企業が実務で参照する順に並べると、次のとおりです。
| 文書 | 決定・公表 | 企業にとっての位置づけ |
|---|---|---|
| 人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針 | 2025年12月19日 人工知能戦略本部決定 | AI法第13条に基づく指針。全ての主体の自主的な取り組みを促すもの |
| 人工知能基本計画 | 2025年12月23日 閣議決定、第Ⅱ期は2026年7月14日 閣議決定 | 政府が進める施策の方針。企業の義務ではないが、支援策や制度見直しの方向がわかる |
| AI事業者ガイドライン | 総務省・経済産業省。最新は第1.2版(2026年3月31日) | 事業者の実務の手引き。開発者・提供者・利用者ごとに取り組みを整理 |
適正性確保に関する指針
この指針は、適正性の確保に必要な要素として、人間中心、公平性、安全性、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)、セキュリティ、プライバシー・個人情報、公正競争、AIリテラシー、イノベーションを挙げています。基本方針は、リスクベースでのアプローチ、ステークホルダーの積極的な関与、一気通貫でのAIガバナンスの構築、アジャイル(柔軟かつ迅速)な対応の4つです。
活用事業者が特に取り組む事項として、AIガバナンスの構築・運用(経営層の関与したモニタリングや評価、情報の開示、教育・研修など)が挙げられています。指針の注記では、ゼロから作らなくても、既存のITシステムのガバナンスの仕組みを活用することも有用とされています。また、取り組みは各主体の規模や立場、リスクに応じた水準でよいとされています。
人工知能基本計画
2025年12月の計画は、「AIを使う」「AIを創る」「AIの信頼性を高める」「AIと協働する」の4つの基本的な方針を示し、当面は毎年変更するとしています。この計画では、中小企業のAI導入を後押しする施策として、デジタル化・AI導入補助金にも触れています。
2026年7月の第Ⅱ期計画では、エージェント型AI(自律的に作業を進めるAI)への対応や、AIを前提に業務の進め方を見直す「AIトランスフォーメーション(AX)」が打ち出されました。あわせて、AI法を含めた制度などを能動的かつ不断に見直す方針も示されています。
AI事業者ガイドライン
具体的に何をすればよいかを知るには、AI事業者ガイドラインが実務に近い資料です。読み方は別の記事「AI事業者ガイドラインの読み方」で詳しく扱います。
既存の法律はどう適用されますか?
AI法ができても、既存の法律の扱いは変わりません。内閣府の概要資料でも、既存の刑法や個別の業法などに加えて新たな法律が必要とされた、という位置づけが示されています。AIを使う場面で特に関係しやすいのは、次の法律です。
- 個人情報保護法:個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIサービスに個人情報を含むプロンプト(指示文)を入力する場合は、利用目的の範囲内かを十分に確認するよう注意を促しています。
- 著作権法:文化庁の文化審議会著作権分科会では、2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」が報告されています。生成物を社外に出すときの確認の手順を決めておくと安心です。
- 業法・契約:金融・医療・人材など業法のある分野や、取引先との秘密保持契約は、従来どおり守る必要があります。
「AI法に罰則がないから大丈夫」ではなく、AIを使う行為そのものには既存の法律がそのまま及ぶと考えておくとよいです。
実務では何から始めればよいですか?
方針・ルール・体制・記録の4つを、次の順で整えると進めやすくなります。
① 方針:AIを何に使うかを決める
第7条が求めているのは、まず「活用に努めること」です。経営として、AIをどの業務に使い、何を目指すのかを短い文章にまとめます。あわせて、社内でいまAIがどこで使われているかを洗い出します。部署ごとに個人の判断で使われているAI(いわゆるシャドーAI)も含めて把握することが出発点です。
② ルール:使い方の最低限を決める
利用してよいサービス、入力してはいけない情報(個人情報・取引先の秘密情報など)、生成物を社外に出す前の確認、問題が起きたときの連絡先を決めます。最初は1〜2ページの利用規程で十分です。
③ 体制:責任者と相談先を決める
AI活用の責任者を置き、情報システム・法務・人事など関係する部署が相談できる窓口を決めます。指針が求める「経営層の関与」は、責任者が定期的に経営会議へ報告する形でも実現できます。
④ 記録:使った事実と判断を残す
どのサービスを、どの業務で、どの設定で使っているかの一覧と、ルールの例外を認めた判断の記録を残します。記録があると、国の調査への回答や、取引先・監査・M&Aの際の確認にも対応しやすくなります。
見直しに備える
AI法の附則第2条には、施行の状況や国際的な動向を踏まえて検討を加え、必要があれば措置を講じるという見直しの規定があります。第Ⅱ期計画でも制度の不断の見直しが示されています。社内ルールにも「年1回は見直す」と書いておき、指針やガイドラインの改訂のたびに差分を確かめる運用にしておくと、変化に落ち着いて対応できます。
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関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
QAI法に違反すると罰則はありますか?
AAI法の条文には罰則の規定がありません。企業の責務としては、AIの活用に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することが定められています。ただし、個人情報保護法や著作権法などの既存の法律は従来どおり適用されます。
Q中小企業もAI法の対象になりますか?
AAI法は、AIを事業活動で活用しようとする者を「活用事業者」と定めており、会社の規模による区別はありません。生成AIを業務で使っている会社は、一般に活用事業者に当たると考えられます。
QAI法に対応するために、最初に何をすればよいですか?
Aまず社内でAIがどこで使われているかを把握し、利用の方針と最低限のルールを決めることから始めるとよいです。そのうえで責任者を決め、利用の記録を残す仕組みを整えます。
QAI法と AI事業者ガイドラインはどう違いますか?
AAI法は国の施策の基本を定めた法律です。AI事業者ガイドラインは、総務省と経済産業省が公表している、事業者の自主的な取り組みのための指針で、法的な拘束力はありません。実務ではガイドラインを手引きとして使うことになります。
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次の一歩
出典
- 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(e-Gov法令検索)
- 内閣府 AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)
- 内閣府 AI法の概要(PDF)
- 内閣府 AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-(2025年10月3日)
- 内閣府 人工知能基本計画
- 人工知能基本計画(概要)令和7年12月23日閣議決定(PDF)
- 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要)令和8年7月14日閣議決定(PDF)
- 内閣府 人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針
- 適正性確保に関する指針 本文(令和7年12月19日 人工知能戦略本部決定、PDF)
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)
- 文化庁 文化審議会著作権分科会(第69回)資料「AIと著作権に関する考え方について」
最終確認日:2026-10-25