社内の問い合わせ対応をAIに任せるには? 小さく始めて育てる進め方
この記事の結論
社内の問い合わせ対応をAIに任せるときは、質問の多い一つの領域から始め、手持ちの規程やマニュアルを根拠に答える形にし、答えられなかった質問を定期的に直していくと定着しやすくなります。最初から完璧を目指すより、記録を取りながら育てる考え方が向いています。
この記事でわかること
- 社内の問い合わせ対応にAIを使うと、何が変わるのか
- 始める領域の選び方と、準備する資料
- 誤回答・個人情報・権限の扱いで気をつけたい点
社内の問い合わせは、なぜ負担になりやすいのですか?
総務・人事・経理・情報システムなどの管理部門には、毎日さまざまな質問が届きます。「会議室のWi-Fiにつながらない」「経費精算の締め日はいつか」「育児休業の申請はどの書式か」。一件ずつは数分で答えられる内容です。
負担になるのは、件数の多さと、作業が途中で止まることです。資料を作っている途中で質問に答え、元の作業に戻ると、考えをもう一度組み立て直す時間がかかります。質問する側も、担当者を探したり返事を待ったりする時間を使っています。
もう一つの課題は、答えが特定の人の頭の中にあることです。「この件は〇〇さんに聞けばわかる」という状態は、その人が休んだり異動したりすると止まってしまいます。
生成AIで、何ができるようになりましたか?
以前の社内FAQのチャットボットは、質問と回答の組み合わせを一つずつ登録する形が中心でした。言い回しが少し違うだけで答えられず、登録の手間も大きいものでした。
いまは、生成AIに社内の規程やマニュアルを参照させ、その内容をもとに答えを作らせる方法が広がっています。この方法はRAG(検索拡張生成)と呼ばれます。質問に関係する文書の箇所を探し、その部分を根拠に回答を作る仕組みです。質問と回答を一から用意しなくても、手持ちの文書を整えることで始められます。
総務省の『令和8年版 情報通信白書』によると、2025年度の企業向け調査で、何らかの業務に生成AIを使っていると答えた日本企業は86.4%でした。業務の種類別では、社内ヘルプデスクでの活用は約5割とされています。議事録やメールの作成補助(約7割)ほどではありませんが、すでに多くの企業が取り組んでいる用途といえます。
何から始めればよいですか?
① 問い合わせの記録を集める
まず、どんな質問がどれだけ来ているかを確かめます。メール、チャット、電話のメモなどから、数週間分を一覧にします。件数、部署、答えるのにかかった時間を簡単に記録しておくと、後で効果を測るときの基準になります。
② 一つの領域に絞る
件数が多く、答えが文書に書かれている領域を一つ選びます。たとえば次のような領域です。
- 情報システム:パソコンの設定、アカウント、パスワードの再設定の手順
- 人事・総務:勤怠の入力、休暇の申請、各種の届け出の書式
- 経理:経費精算の締め日、領収書の扱い、勘定科目の目安
逆に、個別の事情で判断が分かれる質問(評価、懲戒、個人の給与など)は、最初の対象から外します。
③ 参照させる文書を整える
就業規則、規程、マニュアル、過去のFAQなどを集めます。ここで大切なのは、古い版や矛盾する文書を混ぜないことです。AIは渡された文書を根拠に答えるため、古い規程が残っていると古い答えを返します。文書ごとに担当部署と最終更新日を決めておくと、後の管理が楽になります。
④ 答え方の決まりを作る
回答には参照した文書名や箇所を添えるようにします。社員が自分で原文を確かめられ、誤りにも気づきやすくなります。また、次のような場合は担当者へつなぐ決まりにします。
- 文書に答えが見つからないとき
- 規程の解釈や例外の判断が必要なとき
- 個人の事情や個人情報が関わるとき
⑤ 小さく公開し、毎週直す
対象の部署や人数を限って公開します。答えられなかった質問、評価の低かった回答を週に一度見直し、文書を直したり追加したりします。この作業を続けることで、回答の精度が上がっていきます。どの質問が多いかを見ると、マニュアルのわかりにくい箇所や、手続きそのものを見直すきっかけも見えてきます。
気をつけたい点はありますか?
誤回答への備え
生成AIは、事実と違う内容をもっともらしく答えることがあります(ハルシネーションと呼ばれます)。根拠の文書名を示す、判断が必要な質問は担当者へつなぐ、最終的な責任は文書を管理する部署が持つ、といった役割分担を決めておきます。
総務省と経済産業省が2026年3月に公表した『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』は、AIを使う事業者を含む関係者向けに、人間中心、安全性、公平性、プライバシー保護、透明性などの共通の指針を示しています。社内のAI利用の決まりを作るときの参考になります。
個人情報の扱い
社員の氏名や健康、家族の事情などが質問に含まれることがあります。個人情報保護委員会は2023年6月の注意喚起で、生成AIに個人情報を含む指示を入力する場合は、利用目的の範囲内かを十分に確かめること、入力した個人データが学習などに使われないかを事前に確かめることを求めています。契約や設定で、入力内容が学習に使われない形を選びます。
閲覧の権限
人事規程は全社員に見せてよくても、役員規程や給与テーブルは限られた人しか見られないはずです。AIが参照する文書にも、元の文書と同じ閲覧の権限を設定します。権限を考えずに文書を一括で読み込ませると、本来見られない情報が回答に出てしまうおそれがあります。
認めていないAIの利用を減らす
社内に使える仕組みがないと、社員が個人のアカウントで外部のAIサービスを使うことがあります。会社として使える窓口を用意し、使ってよい範囲を示すことは、こうした管理外の利用を減らすことにもつながります。
効果はどう測ればよいですか?
始める前に取った記録と比べます。目安は次のとおりです。
- 担当者に届く問い合わせの件数と、対応にかかった時間
- AIが答えられた割合と、担当者へつないだ割合
- 回答への評価(役に立った/立たなかった)
- 文書の更新回数(育てる作業が続いているか)
数字だけでなく、担当者が本来の業務に使えた時間や、質問する側の待ち時間がどう変わったかも聞き取っておくと、他の部署へ広げるときの説明材料になります。
まとめ
社内の問い合わせ対応は、生成AIの使い道の中でも始めやすく、効果を測りやすい領域です。一つの領域に絞り、文書を整え、答え方の決まりを作り、毎週直す。この積み重ねが、担当者の時間を取り戻し、特定の人に頼っていた知識を会社の資産に変えていきます。
関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
Q社内向けのAIチャットボットは、何から始めればよいですか?
A問い合わせの記録を数週間分集め、件数の多い領域を一つ選ぶところから始めます。情報システム部門のパソコンやアカウントの質問、総務・人事の勤怠や経費の質問などが候補になります。
QAIが間違った答えを返すことはありませんか?
Aあります。生成AIはもっともらしい誤りを返すことがあるため、回答に根拠の文書名を示す、規程の解釈や個別の判断は担当者へつなぐ、答えられなかった質問を定期的に見直す、といった仕組みで補います。
Q社員の個人情報を含む質問を入力しても大丈夫ですか?
A利用目的の範囲内か、入力した内容がサービス側の学習に使われないかを事前に確かめる必要があります。個人情報保護委員会も、生成AIに個人情報を入力する際の注意点を示しています。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの業務利用状況
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの活用方針等
- 個人情報保護委員会『生成AIサービスの利用に関する注意喚起等』(令和5年6月2日)
- 総務省・経済産業省『AI事業者ガイドライン(第1.2版)』(令和8年3月31日)
最終確認日:2026-10-25