国内のLLM開発はいまどうなっているか? 2026年秋の動きと企業の選び方
この記事の結論
国内では、国の法律・計画・支援を土台に、企業や研究機関が日本語に強いLLM(大規模言語モデル)を開発し、企業向けに提供する動きが続いています。企業にとっては、海外の大規模モデルとの優劣を考えるより、扱うデータの条件や用途に合わせて選べる選択肢が増えている、と見ると判断しやすくなります。
この記事でわかること
- 2026年10月時点の、国内のLLM開発を支える制度と支援
- 国内で開発・提供されている主なモデルの特徴(公開情報の範囲)
- 企業がモデルを選ぶときに確かめたい点
国は、どんな枠組みでAI開発を進めていますか?
AI法と人工知能基本計画
2025年6月4日、「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(AI法)が公布されました。同年9月1日に全面施行され、内閣に人工知能戦略本部が置かれました。
この法律にもとづく人工知能基本計画は、2025年12月23日に最初の計画が閣議決定され、2026年7月14日には第Ⅱ期の計画が閣議決定されています。第Ⅱ期の概要では、信頼できるAI基盤モデルの開発、日本の文化などを踏まえたAIの開発と評価、データセットの整備が挙げられています。重点分野としては、業界ごとに特化したAI、ロボットなど実世界で動くAI、科学研究のためのAIが示されています。計算資源・データ・電力を国の基盤として確保する方針も掲げられています。
GENIAC
経済産業省とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は、生成AIの開発力を高めるプロジェクト「GENIAC」を2024年2月から進めています。中心となる支援の一つが、基盤モデルの開発に必要な計算資源の利用料などの補助です。2026年6月には、第4期としてAI基盤モデル開発のテーマ16件の採択が公表されました。
2026年7月には、複数の企業にまたがるデータを集めて活用する「データエコシステム」の研究開発テーマ9件も採択されています。モデルを作る力だけでなく、学習や活用に使うデータを整える取り組みにも支援が広がっていることがわかります。GENIACでは、開発者と利用企業を引き合わせる催しや、AIの社会実装を対象にした懸賞事業(GENIAC-PRIZE)も行われています。
国内では、どんなモデルが作られていますか?
ここでは、公開情報で確かめられる範囲で、主な取り組みを開発元の発表にもとづいて紹介します。性能の比較や優劣の評価は行いません。
研究機関によるモデル
- LLM-jp(国立情報学研究所):大学・企業の研究者が参加する取り組みです。2026年4月には「LLM-jp-4」シリーズが公開されました。発表によると、約12兆トークンの学習データを使い、オープンソースのライセンスで公開されています。学習データの集め方や中身を公開している点も特徴です。
- Fugaku-LLM:東京工業大学(当時)、理化学研究所、富士通などが、スーパーコンピュータ「富岳」を使って学習したモデルで、2024年5月に公開されました。GPUではなく国産のCPUで学習した点が特徴とされています。
企業によるモデル
- tsuzumi 2(NTT):2025年10月に発表された、NTTがゼロから開発したモデルです。発表資料では、パラメータ数は約300億で、一台のGPUで動作し、自社内の設備(オンプレミス)でも使える点が示されています。
- Takane(富士通):富士通がカナダのCohere社と共同開発したモデルで、2024年7月に提携が発表されました。Cohere社のモデルを土台に、日本語の追加学習を行う方式です。社内に閉じたクラウド環境での利用を想定しています。
- PLaMo(Preferred Networks):Preferred Networksのグループがゼロから開発しているモデルです。2025年5月には商用版の「PLaMo 2.0 Prime」が提供され、クラウドのほかオンプレミスでの提供にも対応すると報じられています。
- Sarashina(SB Intuitions):ソフトバンクの子会社SB Intuitionsが開発するモデルです。2026年4月、国内のデータセンターで管理するクラウド基盤の上で、このモデルを使った生成AIサービスを同年6月から順次提供すると発表されました。
このほかにも、大学やスタートアップ、各業界の企業が、医療・金融・製造などの分野に特化したモデルの開発を進めています。
国内のモデルには、どんな傾向がありますか?
公開情報を並べると、いくつかの共通点が見えてきます。
① 日本語と日本の商習慣への対応
多くの開発元が、日本語の文書や日本の文化・慣習への対応を特徴に挙げています。敬語や社内文書の言い回し、日本の制度にもとづく業務など、日本企業の日常業務に近い場面を想定した開発が進んでいます。
② 小さめのモデルと、置き場所の選択
一台のGPUで動く規模にとどめ、自社の設備や国内のデータセンターで動かせる形を選ぶモデルが目立ちます。大量のデータを外部に出さずに使いたい企業や、データを国内で管理すること(データ主権、ソブリン性とも呼ばれます)を重視する組織を意識した設計です。
③ 業界・用途への特化
人工知能基本計画でも、業界ごとに特化したAIが重点として挙げられています。汎用の大規模モデルとは別に、特定の業務で使いやすいモデルを作る方向が強まっています。
課題として挙げられていることは何ですか?
国の計画や支援策から読み取れる課題は、主に三つです。
- 計算資源:基盤モデルの開発には大量の計算資源が必要です。GENIACが計算資源の補助を中心に置いているのは、この点が大きな負担になっているためです。
- データ:学習や評価に使える質の高いデータ、なかでも企業が持つ実データをどう集めて活かすかが課題とされ、データエコシステムの支援が始まっています。
- 人材:基本計画では、世界水準の研究者・開発者の確保と、AIを現場に実装する人材の育成が掲げられています。
企業は、どう選べばよいですか?
モデルの名前から選ぶより、用途ごとに条件を並べる方法が向いています。
① 扱うデータの重要度を分ける
社外に出してよい情報、社内に限る情報、特に厳しく管理する情報(個人情報、技術情報、未公表の経営情報など)に分けます。重要度が高いほど、処理する場所や学習への利用の有無を厳しく確かめます。
② 置き場所と運用の体制を決める
クラウドのサービスとして使うか、国内のデータセンターに限るか、自社の設備で動かすかを決めます。自社で動かす場合は、設備の費用だけでなく、更新や監視を担う人の手当ても必要です。
③ 実際の業務で試す
発表資料の数値は、開発元が選んだ評価の結果です。自社の文書や質問を使い、複数のモデルで同じ作業を試して比べます。日本語の自然さ、誤りの少なさ、処理の速さ、費用を並べると判断しやすくなります。
④ 使い分けを前提にする
一つのモデルですべてを賄う必要はありません。一般的な文章作成には海外の大規模モデル、機密性の高い社内データの処理には国内で管理できるモデル、というように用途で使い分ける考え方もあります。
まとめ
国内のLLM開発は、AI法と人工知能基本計画、GENIACなどの支援を土台に、研究機関と企業がそれぞれの強みを活かして進めています。日本語への対応、置き場所を選べる設計、業界への特化といった特徴は、日本企業の選択肢を広げています。どれがよいかは用途によって変わります。扱うデータと運用の体制から条件を整理し、実際の業務で試して選ぶことが、無理のない進め方です。
関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
Q国産のLLMと海外のLLMは、どちらを選べばよいですか?
A一概にどちらがよいとはいえません。扱うデータの重要度、置き場所の条件、必要な日本語の質、費用、社内で運用できる体制などを並べ、用途ごとに選ぶ方法が向いています。複数のモデルを使い分ける企業もあります。
Q国産のLLMなら、情報漏えいの心配はありませんか?
A開発元が国内でも、それだけで安全とはいえません。データをどこで処理するか、学習に使われるか、アクセスの権限や記録をどう管理するかを、契約と設定で確かめることが大切です。
Q中小企業にも国産LLMを使う場面はありますか?
Aあります。クラウドの生成AIサービスとして提供されるもの、一台のGPUで動かせる規模のもの、公開されていて自由に試せるものなどがあり、目的に合わせて選べます。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- 内閣府『AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-』(2025年10月3日)
- 内閣府『人工知能基本計画』(令和8年7月14日閣議決定)
- 内閣府『人工知能基本計画 概要』(令和8年7月14日)
- 経済産業省『GENIACにおける計算資源の提供支援(第4期)において、AI基盤モデル開発テーマ計16件を採択しました』(2026年6月4日)
- 経済産業省『GENIACにおいて、新たにデータエコシステム構築等に関する研究開発テーマ計9件を採択しました』(2026年7月2日)
- GENIAC 公式サイト
- 国立情報学研究所 ニュースリリース(2026年4月3日)LLM-jp-4
- NTT『tsuzumi 2』発表資料(2025年10月20日)
- 富士通 プレスリリース(2024年7月16日)Cohereとの戦略的提携とTakane
- 東京工業大学 ニュース(2024年5月10日)Fugaku-LLM の公開
- 窓の杜『国産フルスクラッチLLM「PLaMo 2.0 Prime」リリース』(2025年5月23日)
- ソフトバンク プレスリリース(2026年4月16日)国産LLM「Sarashina」を活用した生成AIサービス
最終確認日:2026-10-25