国内の動き:AIの法令・指針・補助金の現在地
この記事の結論
日本のAI制度は、罰則のない「AI法」を土台に、内閣府の指針と総務省・経済産業省のAI事業者ガイドラインで自主的な取り組みを促す形です。2026年は第Ⅱ期の人工知能基本計画と個人情報保護法の改正が加わりました。企業は、ガイドラインを手引きに社内ルールを整え、改正法の施行と補助金の日程を追うことが当面の対応になります。
この記事でわかること
- AI法・人工知能基本計画・適正性確保に関する指針・AI事業者ガイドラインのつながり
- 個人情報保護法の2026年の改正と、著作権の考え方が生成AIの利用にどう関わるか
- デジタル化・AI導入補助金の日程と、制度の変化に合わせて企業が見直すこと
このページでは、日本のAIに関わる法令・指針・補助金を、2026年10月25日時点の一次情報にもとづいて整理します。制度ごとに「いまの状況」「日本企業への影響」「やること」の順でまとめています。
AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)
いまの状況
AI法(令和7年法律第53号)は、2025年6月4日に公布・一部施行され、9月1日に全面施行されました。全面施行とあわせて、内閣総理大臣を本部長とする人工知能戦略本部が内閣に置かれています。
AI法は国の施策の基本を定める法律で、罰則や、事業者への許可・届出の義務はありません。そのかわり、国が指針を整え(第13条)、調査研究とそれにもとづく指導・助言・情報の提供を行う(第16条)しくみが定められています。
日本企業への影響
AIを事業で使う会社は、会社の規模にかかわらず「活用事業者」に当たると考えられます。第7条では、活用事業者に、AIの活用に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することを求めています。
やること
- 社内でAIを使っている業務とサービスを一覧にし、責任者を決めます
- 国の調査や指針の改訂に対応できるよう、利用の記録を残します
詳しくは「AI法と企業の対応」で解説しています。
人工知能基本計画(第Ⅰ期・第Ⅱ期)
いまの状況
AI法にもとづく最初の人工知能基本計画は、2025年12月23日に閣議決定されました。副題は「『信頼できるAI』による『日本再起』」です。
続く第Ⅱ期の計画は、2026年7月10日の人工知能戦略本部で案が決定され、7月14日に閣議決定されました。副題は「日本AX、より強く、より豊かに」です。AIを使う・創る・信頼性を高める・協働するの4つの柱を引き継ぎつつ、エージェント型AI(自律的に作業を進めるAI)への対応や、AIを前提に業務の進め方を見直す「AX(AIトランスフォーメーション)」を打ち出しています。計画は当面毎年変更するとされています。
日本企業への影響
基本計画は政府の施策の方針で、企業に義務を課すものではありません。ただし、第Ⅱ期では中堅・中小企業のAI導入の支援や、AI法を含む制度を能動的かつ不断に見直す方針が示されています。支援策や制度の変化の方向を知る手がかりになります。
やること
- 自社の業界に関わる施策(領域別の戦略や支援策)を確かめます
- 計画の毎年の変更にあわせ、社内の方針の見直し時期を決めておきます
適正性確保に関する指針
いまの状況
AI法第13条にもとづく「人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針」は、2025年12月19日に人工知能戦略本部で決定されました。人間中心、公平性、安全性、透明性、アカウンタビリティ(説明責任)、セキュリティ、プライバシーなどを、適正性の確保に必要な要素として挙げています。
日本企業への影響
活用事業者には、経営層が関わるAIガバナンスの構築・運用が求められています。取り組みの水準は、事業者の規模や立場、リスクに応じたものでよいとされています。既存のITのガバナンスのしくみを生かす進め方も示されています。
やること
- AIの利用状況を定期的に経営会議へ報告する場を設けます
- 情報セキュリティの規程など、既存のしくみにAIの項目を加えます
AI事業者ガイドライン(第1.2版)
いまの状況
総務省と経済産業省のAI事業者ガイドラインは、2026年3月31日に第1.2版が公表されています。法的な拘束力のない指針(ソフトロー)で、改訂を重ねる文書と位置づけられています。第1.2版では、AIエージェントやフィジカルAI(ロボットなどを通じて現実世界に働きかけるAI)についての記述が加わりました。
日本企業への影響
ガイドラインは、事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて取り組みを整理しています。多くの会社は「AI利用者」に当たり、実務に近い手引きとして使えます。
やること
- 自社の立場を部署ごとに確かめ、該当する章とチェックリストを読みます
- AIエージェントを使う場合は、権限の範囲と操作履歴の確認方法を決めます
読み方は「AI事業者ガイドラインの読み方」で解説しています。
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)
いまの状況
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、2024年2月14日に情報処理推進機構(IPA)の中に設立されました。AIの安全性の評価手法や基準づくりの検討を通じて政府を支援し、国内外の関係機関と連携する役割を担っています。自ら研究開発を行う組織ではなく、官民の取り組みを支える機関とされています。
第Ⅱ期の基本計画では、AISIの機能を強化し、モデルの評価やトレーサビリティ(来歴の追跡)、ガードレール(安全のための制御)などの技術的な評価の力を整える方針が示されています。
日本企業への影響
AISIが公表する評価の観点や資料は、AIを選ぶときや自社で開発するときの確認項目の参考になります。
やること
- AIの評価や安全性の確認に関する公表資料を、社内の確認項目に取り入れます
個人情報保護法と生成AI
いまの状況
個人情報保護委員会は2023年6月2日、生成AIサービスの利用について注意喚起を行いました。個人情報を含むプロンプト(指示文)を入力する場合は、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう求めています。
あわせて、「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律」が2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。委員会の資料によると、主な内容は次のとおりです。
- 統計情報等の作成にのみ利用する場合(AIの開発を含む)に、一定の条件のもとで個人データの第三者提供などの本人同意を不要とする特例
- 重大な違反に対する課徴金の導入
- 16歳未満のこどもの個人情報の取り扱いの明確化
- 顔特徴データ等の取り扱いの周知の義務化
- 漏えい報告・本人通知の見直し
施行は原則として公布の日から2年を超えない範囲内とされ、細かな要件は政令・規則で定められます。
日本企業への影響
生成AIへの入力は、個人情報の利用目的や第三者提供の考え方と関わります。改正法の特例を使ってAIの開発などにデータを活用する場合も、公表や書面での合意などの条件を満たす必要があります。
やること
- 生成AIに入力してはいけない情報を、社内ルールで具体的に決めます
- 改正法の政令・規則の案と施行日の公表を確かめ、規程の見直しを予定に入れます
著作権(文化庁の考え方・チェックリスト)
いまの状況
文化庁は2024年3月15日に「AIと著作権に関する考え方について」、2024年7月31日に「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」を公表しています。考え方では、AIの開発・学習の段階と、生成・利用の段階を分けて整理しています。
日本企業への影響
生成物を社外に出すときは、既存の作品との類似の有無などが、通常の著作物と同じように問われます。AIで作ったことは、著作権の確認を省く理由にはなりません。
やること
- 社外に出す生成物の確認手順(似た作品がないか、使った指示文の記録など)を決めます
- チェックリスト&ガイダンスを、制作や広報の担当者と共有します
デジタル化・AI導入補助金
いまの状況
中小企業がITツールを導入する費用の一部を補助する制度で、令和7年度補正予算事業から「IT導入補助金」が「デジタル化・AI導入補助金」に改称されています。2026年度の公募では、通常枠・インボイス枠(インボイス対応類型・電子取引類型)・セキュリティ対策推進枠・複数者連携デジタル化・AI導入枠の5つが設けられています。
公式サイトの事業スケジュールでは、各枠の締切が2026年10月30日(金)17時、交付決定日が2026年12月10日(木)の予定と掲載されています。その後の日程は随時公表とされています。
日本企業への影響
対象は、IT導入支援事業者が事務局に登録したITツールに限られます。通常は、交付決定の前に契約・支払いを行った経費は補助の対象になりません。
やること
- 導入したいツールが登録されているかを、公式サイトで確かめます
- 次の回の日程が公表されたら、交付決定から逆算して契約の時期を決めます
制度の詳しい使い方は「デジタル化・AI導入補助金の使い方」で解説しています。
年表
| 時期 | 出来事 | 区分 |
|---|---|---|
| 2023年6月2日 | 個人情報保護委員会が生成AIサービスの利用について注意喚起 | 個人情報 |
| 2024年2月14日 | AIセーフティ・インスティテュートをIPAに設立 | 体制 |
| 2024年3月15日 | 文化庁「AIと著作権に関する考え方について」 | 著作権 |
| 2024年7月31日 | 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」 | 著作権 |
| 2025年6月4日 | AI法の公布・一部施行 | 法令 |
| 2025年9月1日 | AI法の全面施行、人工知能戦略本部の設置 | 法令 |
| 2025年12月19日 | 適正性確保に関する指針を人工知能戦略本部が決定 | 指針 |
| 2025年12月23日 | 最初の人工知能基本計画を閣議決定 | 計画 |
| 2026年3月30日 | デジタル化・AI導入補助金2026の交付申請の受付開始 | 補助金 |
| 2026年3月31日 | AI事業者ガイドライン第1.2版の公表 | 指針 |
| 2026年7月10日 | 改正個人情報保護法の成立(7月17日公布) | 個人情報 |
| 2026年7月14日 | 第Ⅱ期人工知能基本計画を閣議決定 | 計画 |
| 2026年10月30日 | デジタル化・AI導入補助金の各枠の締切 | 補助金 |
| 2026年12月10日 | 同補助金の交付決定(予定) | 補助金 |
更新の履歴
- 2026-10-25:作成(制度の最終確認日 2026-10-25)
よくあるご質問
Q日本にはAIを規制する法律がありますか?
AAIそのものを対象にした法律として、2025年9月に全面施行されたAI法があります。ただしAI法は国の施策の基本を定めた法律で、罰則や許可・届出の義務はありません。個人情報保護法や著作権法などの既存の法律は、AIを使う場面にもそのまま適用されます。
QAI法・指針・AI事業者ガイドラインは、どれから読めばよいですか?
A実務では、総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.2版)から読むと進めやすいです。AI法は全体の枠組み、内閣府の適正性確保に関する指針は考え方の土台、人工知能基本計画は政府の施策の方向を知るための資料として位置づけるとわかりやすくなります。
Q2026年の個人情報保護法の改正は、いつから適用されますか?
A改正法は2026年7月10日に成立し、7月17日に公布されました。個人情報保護委員会の資料では、施行は原則として公布の日から2年を超えない範囲内とされています。細かな要件は政令・規則で定められるため、委員会の公表資料を順に確かめるとよいです。
Q生成AIを使うときに、著作権で気をつけることは何ですか?
A文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」では、AIの開発・学習の段階と、生成・利用の段階を分けて整理しています。社外に出す生成物は、既存の作品に似ていないかを確かめる手順を決めておくと安心です。文化庁のチェックリスト&ガイダンスも参考になります。
関連するガイド
出典
- 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(e-Gov法令検索)
- 内閣府 AI法 全面施行 -次なるフェーズへ-(2025年10月3日)
- 内閣府 人工知能基本計画
- 人工知能基本計画 ~「信頼できるAI」による「日本再起」~(令和7年12月23日 閣議決定、PDF)
- 第Ⅱ期人工知能基本計画(概要)(令和8年7月14日 閣議決定、PDF)
- 首相官邸 人工知能戦略本部(第5回、令和8年7月10日)
- 人工知能関連技術の研究開発及び活用の適正性確保に関する指針(令和7年12月19日 人工知能戦略本部決定、PDF)
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)
- AI事業者ガイドライン(第1.2版)本編(令和8年3月31日、PDF)
- AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の概要(PDF)
- 個人情報保護委員会 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(令和5年6月2日)
- 個人情報保護委員会 令和8年 改正個人情報保護法について
- 個人情報保護委員会事務局 個人情報保護法等の一部を改正する法律について(令和8年7月、PDF)
- 文化庁 AIと著作権について
- デジタル化・AI導入補助金2026 事業スケジュール
- 中小企業庁 デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領を公開しました