AIの導入で成果を出す会社は何が違うのか? 公開事例から見る進め方
この記事の結論
AIの導入で成果を出している会社は、解決したい課題から始め、現場を巻き込んで小さく試し、使いながら直し続け、効果を数字で確かめています。特別な技術や大きな予算よりも、この進め方を続けられるかどうかが成果を分けています。
この記事でわかること
- AIの導入の成果について、公的な調査からわかること
- 公開されている事例に共通する進め方
- 自社で始めるときに押さえたい点
AIを導入した会社は、どのくらい成果を出していますか?
AIの導入は広がっています。総務省の『令和8年版 情報通信白書』によると、2025年度の企業向け調査で、何らかの業務に生成AIを使っていると答えた日本企業は86.4%でした。
一方で、成果の手応えには幅があります。IPAの『DX動向2026』によると、AIを導入または試験的に使っている企業のうち、「期待以上の効果があった」は13.7%、「期待どおりの効果であった」は18.1%で、合わせて31.8%でした。「一定の効果はあった」は50.6%です。多くの会社が何らかの効果を感じている一方、期待どおりの成果まで届いている会社は3割ほどにとどまります。IPAは、AIの活用が業務の効率化に偏っており、企業価値を生む取り組みへの広がりは限られていると指摘しています。
同じ調査では、AIの導入や運用の課題として、「専門人材が不足している」(50.1%)、「生成AIの効果やリスクに関する理解が不足している」(45.8%)、「適切な利用を管理するためのルールや基準の作成が難しい」(39.7%)が上位に挙がっています。
うまくいかないのは、どんなときですか?
成果が出にくい場合には、いくつかの共通点が見られます。
- 道具の導入が目的になる:他社が使っているから、という理由で始め、何を解決したいのかが曖昧なまま進む。
- 現場が置き去りになる:経営層や情報システム部門だけで決め、業務の実態に合わない仕組みになる。
- 最初から完璧を求める:試しの段階で高い精度を求め、使い始める前に止まってしまう。
- 効果を測らない:始める前の状態を記録しておらず、何が変わったのかを説明できない。
成果を出している会社は、何をしていますか?
ここでは、公開されている情報から、進め方の特徴が読み取れる事例を紹介します。紹介する数字は、各社または経済産業省の公表資料によるものです。
① 全社で使う仕組みを作り、効果を毎年公表する
パナソニック コネクトは、2023年2月から生成AIの業務利用を始め、国内の全社員にAIの活用を広げています。2026年7月の発表によると、2025年度は社内のAIの利用によって78.8万時間の業務時間を減らし、年間の総労働時間の3.4%に当たるとしています。議事録の作成、プログラムの作成、提案書や設計書の作成支援など、個人の業務での利用が広がったことが要因とされています。今後は、社内の業務システムのデータとAIを連携させ、2030年に総労働時間の10%を減らす目標を掲げています。
ここから読み取れるのは、利用の回数や減らせた時間を測り続け、結果を公表している点です。数字があることで、次の投資や展開の判断がしやすくなります。
② 中堅・中小企業の事例:現場が主役になる
経済産業省とIPAは、DXで成果を上げている中堅・中小企業などを「DXセレクション」として選んでいます。2026年に選ばれた企業の資料からは、AIの活用について次のような進め方が読み取れます。
- プーラビダ株式会社(福岡県、訪問看護・介護):生成AIを使った社内向けの仕組みを自社で作り、看護師の報告書の作成を支援しています。経営の判断と現場からの提案を組み合わせ、全員が参加する体制で進めた点が紹介されています。
- 株式会社エヌエスケーケー(兵庫県、小売業):社長直属のチームのもとで、全社員が生成AIを使える環境を整えました。全部署から毎月、生成AIを使った改善の成果を報告する場を設けています。
- 株式会社川六(香川県、宿泊・飲食):社内の文書を参照して答える仕組み(RAG)を使い、ベテランの経験を形にしています。毎週の検討会議に、IT担当者に限らず60代の社員やパートを含む従業員が参加していると紹介されています。
- 株式会社ネクサスエージェント(大阪府、不動産業):全社員向けの実践的なAI研修を行い、現場で生まれた活用例を全社の会議で共有して広げています。
いずれの事例でも、現場の社員が自分の業務の困りごとからAIの使い方を考え、その成果を社内で共有する仕組みが見られます。
事例から見える進め方は?
① 課題から始める
「AIで何ができるか」ではなく、「どの業務の、何に困っているか」から始めます。時間がかかっている、人によって品質がばらつく、特定の人に頼っている、といった困りごとが候補です。課題がはっきりしていると、効果の測り方も決めやすくなります。
② 小さく試し、現場を巻き込む
対象の業務や部署を絞って始めます。使う人が仕組みづくりに参加すると、業務の実態に合った形になり、使われ続けやすくなります。うまくいった例は、次に広げるときの説得材料になります。
③ 使いながら直す
AIは最初から完璧には動きません。人が確かめる工程を残したまま使い始め、誤りや使いにくさを集めて直していきます。どこまでをAIに任せ、どこから人が確かめるかを先に決めておくと、安心して始められます。
④ 学ぶ機会と共有の場を作る
IPAの調査でも、人材やリスクへの理解の不足が課題の上位でした。全社員向けの研修や、成果を報告し合う場を定期的に設けることは、多くの事例に共通しています。
⑤ 効果を測り、ルールを整える
始める前の作業時間や件数を記録し、導入後と比べます。あわせて、入力してよい情報、使ってよいサービス、確認の手順などの利用のルールを整えます。ルールがあると、社員は迷わず使え、管理されていないAIの利用も減らせます。
まとめ
AIの導入は多くの会社に広がりましたが、期待どおりの成果に届いている会社はまだ一部です。成果を出している会社に共通するのは、課題から始め、現場とともに小さく試し、使いながら直し、効果を測って共有するという地道な進め方です。AIの導入はIT部門だけの仕事ではなく、業務の進め方や組織の習慣を見直す経営の取り組みとして進めると、成果につながりやすくなります。
関連するひな形・ガイド・用語
よくあるご質問
QAIの導入は、どの業務から始めればよいですか?
A時間がかかっている、人によって品質がばらつく、特定の人に頼っている、といった困りごとがはっきりしている業務から始めます。効果を数字で測りやすい業務を選ぶと、次の展開の説明もしやすくなります。
QAIの精度が十分でないうちに使い始めてもよいですか?
A人が確かめる工程を残したうえで使い始め、誤りを直しながら精度を上げていく進め方が向いています。どこまでをAIに任せ、どこから人が確かめるかを先に決めておきます。
Q社員がAIを使ってくれない場合はどうすればよいですか?
A現場の困りごとから対象を選ぶこと、使い方を学ぶ機会を設けること、うまくいった使い方を社内で共有することが助けになります。公開事例でも、全社員向けの研修や成果の共有の場を設けている会社が見られます。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- IPA『DX動向2026』(2026年7月30日公開)
- IPA プレス発表『国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表』(2026年7月16日)
- パナソニック コネクト プレスリリース(2026年7月29日)
- 経済産業省『DXセレクション』
- 経済産業省『DXセレクション2026 選定企業レポート』
- 総務省『令和8年版 情報通信白書』生成AIの業務利用状況
最終確認日:2026-10-25