AIを使う業務の選び方:業務の棚卸しから優先順位まで
この記事の結論
AIを使う業務は、①業務を作業単位に分けて棚卸しし、②AIに向くかを見分け、③「効果」と「難しさ」の2軸で優先順位をつけて選ぶと、迷わずに決められます。最初の1件は、効果が見えやすく、失敗しても影響が小さい業務がおすすめです。
「AIで何ができるか」から考えると、目新しい使い方に目が向きがちです。「どの作業に時間がかかっているか」から考えると、効果の出やすい業務が見つかります。
この記事でわかること
- 業務の棚卸しを、作業単位まで分けて進める手順
- AIに向く業務・向かない業務を見分ける目安
- 効果と難しさの2軸で優先順位をつけ、最初の1件を選ぶ方法
なぜ「業務の棚卸し」から始めるのですか?
業務の棚卸しとは、部署で行っている仕事を一覧にし、それぞれにかかる時間や頻度、担当者を書き出すことです。
AIの導入でよくあるのは、「話題のツールを入れたが、使いどころが決まらない」という状況です。棚卸しから始めると、いま時間がかかっている作業を起点に考えられるため、効果が出たかどうかも比べやすくなります。また、業務の流れが見えることで、AI以外の方法(手順の見直し、既存ツールの設定の変更など)で解決できる課題が見つかることもあります。
業務の棚卸しはどう進めればよいですか?
① 範囲を決める
最初から全社で行う必要はありません。1つか2つの部署、または一つの業務の流れ(例:問い合わせ対応、見積もり作成、月次の報告)に絞ります。
② 業務を「作業」の単位に分ける
「営業」「経理」のような大きなくくりでは、AIに向くかどうかを判断できません。一つの業務を、動詞で表せる作業まで分けます。
例:見積もり作成の場合
- お客様の依頼メールを読み、条件を整理する
- 過去の似た見積もりを探す
- 単価表から金額を計算する
- 見積書を作る
- 上司の承認をもらう
- 送付のメールを書く
③ 作業ごとに情報を書き出す
作業ごとに、次の項目を表にまとめます。ひな形(業務の棚卸し表)を使うと進めやすくなります。
- 頻度(毎日・毎週・毎月など)と1回あたりの時間
- 関わる人数
- 使っている情報(メール、表計算、紙、社内システムなど)
- 判断の重さ(間違えたときの影響)
- 困っていること(時間がかかる、人によって品質が違う、探すのに手間がかかる など)
数字は正確でなくてかまいません。担当者の感覚で「おおよそ」を書いてもらうほうが、早く全体が見えます。
④ 現場に聞く
表を作るときは、実際に作業をしている人に聞きます。「AIで何をしたいか」ではなく、「どの作業に時間がかかるか」「くり返しが多い作業は何か」を聞くと、具体的な答えが返ってきます。
AIに向く業務・向かない業務はどう見分けますか?
ここでは主に生成AI(文章や画像などを作るAI)を想定して、見分ける目安をご紹介します。
AIに向きやすい作業
- 文章の下書き: メール、報告書、案内文など。人が仕上げる前提で使います。
- 要約・整理: 長い資料や議事録から要点や決定事項を抜き出す。
- 形を変える作業: 箇条書きを文章に、文章を表に、日本語を英語に、など。
- 探す・比べる作業: 社内の文書から関係する箇所を探す、複数の資料の違いを並べる。
- アイデア出し: 企画の切り口、見出しの候補などを数多く挙げる。
共通しているのは、くり返しが多いこと、正解が一つに決まらないこと、人が最後に確かめられることです。
AIに向きにくい作業(または慎重に扱う作業)
- 間違いが許されない計算や判定: 金額の確定、法令の適合の最終判断など。AIは補助にとどめ、決めるのは人にします。
- 扱う情報が社外に出せないもの: 会社の利用ルールで入力が認められていない情報を扱う作業。
- 元になるデータがない・散らばっている作業: 判断の材料が担当者の頭の中にしかない場合は、先に情報の整理が必要です。
- 頻度が低い作業: 年に一度しか行わない作業は、手順を整える手間に見合わないことがあります。
- 人と人との関係が中心の作業: お詫びや交渉など、相手との信頼に関わる場面は、下書きにとどめて人が対応します。
「向きにくい」は「使えない」ではありません。作業を細かく分けると、一部はAIに任せられることがよくあります。たとえば、契約書の最終判断は人が行い、条文の要約や過去の契約との違いの洗い出しをAIに手伝ってもらう、という分け方です。
優先順位はどうつければよいですか?
候補の作業を、「効果」と「難しさ」の2軸で評価します。
効果の目安
- いまかかっている時間(1回の時間×月の回数×人数)
- 品質のばらつきが減るか
- お客様への対応の早さが上がるか
- 担当者の負担(残業、特定の人への集中)が減るか
難しさの目安
- 扱う情報の重さ(個人情報や秘密情報を含むか)
- 必要なデータがそろっているか
- 既存のシステムとつなぐ必要があるか
- 間違えたときの影響の大きさ
- 関わる部署や人の多さ
それぞれを3段階(高・中・低)で評価し、次の4つに分けます。
- 効果が大きく、難しさが小さい: 最初に取り組む候補です。
- 効果が大きく、難しさも大きい: 計画を立てて段階的に進めます。データの整備やルールの準備から始めます。
- 効果が小さく、難しさも小さい: 個人の工夫として、使い方集で共有します。
- 効果が小さく、難しさが大きい: いまは見送ります。理由を棚卸し表に残しておきます。
評価は、担当者一人ではなく、業務をよく知る人と、情報システムや管理部門の人が一緒に行うと、見落としが減ります。
最初の1件はどう選べばよいですか?
最初の1件は、その後の広がり方に影響します。次の条件を満たすものを選ぶとよいと考えています。
① 効果が数字で見えやすい: 作業時間や件数など、試す前と後を比べられる。
② 失敗しても影響が小さい: 社内向けの作業や、人が最後に確認できる作業。
③ くり返しが多い: 毎日・毎週発生し、試す回数を確保できる。
④ 扱う情報が会社のルールの範囲内: 入力してはいけない情報を含まない、または取り除ける。
⑤ やる気のある担当者がいる: 試行を記録し、気づきを共有してくれる人がいる。
例として、社内会議の議事録の整理、定型の問い合わせへの返信の下書き、社内向け資料の要約などは、多くの会社で最初の1件になりやすい作業です。
選んだら、試す期間(例:4週間)と、効果を測る物差し(1〜2個)を決めてから始めます。進め方は「生成AIのはじめ方:会社として最初の30日でやること」で詳しくご紹介しています。
よくある失敗はどんなものですか?
- ツールから選んでしまう: 先にツールを決めると、使いどころを後から探すことになります。作業から考えます。
- 大きな業務のまま評価する: 「営業をAI化する」では評価できません。作業単位まで分けます。
- 最初に難しい業務を選ぶ: 効果は大きくても、データやルールの準備に時間がかかり、成果が出る前に関心が下がることがあります。
- 効果を測る物差しを決めずに始める: 終わった後に「よかった気がする」で判断することになります。試す前に決めておきます。
- 現場の声を聞かない: 管理部門だけで選ぶと、実際の作業と合わないことがあります。
- 棚卸し表を作って終わる: 表は見直してこそ役立ちます。試行の結果やツールの変化をふまえ、半年ごとなどに更新します。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
ひな形
- 業務の棚卸し表準備中
よくあるご質問
Q業務の棚卸しは全社でやらないといけませんか?
A最初は1つか2つの部署に絞っても十分です。範囲を絞ると、作業単位まで細かく分けやすくなり、候補の質が上がります。うまくいった進め方を、ほかの部署にも広げていくのが進めやすい方法です。
Q効果はどうやって見積もればよいですか?
A「1回あたりの作業時間×月の回数×関わる人数」で、いまかかっている時間の目安を出します。そのうちAIでどの程度減らせそうかは、試してみないとわからないことが多いため、見積もりは仮の数字として扱い、試行で確かめます。
QAIに向かない業務は、ずっと対象外ですか?
Aいまは向かなくても、データの整備やツールの進歩で向くようになることがあります。棚卸し表に理由を残しておき、見直しのときに改めて検討するとよいと考えています。
Q現場から候補が出てこないときはどうすればよいですか?
A「AIで何ができるか」ではなく、「時間がかかる作業」「くり返しが多い作業」「探すのに手間がかかる作業」を聞くと、候補が出やすくなります。短い実演を見てもらうのも効果的です。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- この記事は、業務の棚卸しと優先順位づけの一般的な進め方をまとめたもので、統計や制度には触れていません。