生成AIのはじめ方:会社として最初の30日でやること
この記事の結論
会社で生成AIを始めるときは、①目的と担当を決める、②法人向けのツールと設定を決める、③利用ルールを決める、④小さな業務で試す、⑤効果を測って広げるかを決める、の順に30日で進めると、無理なく最初の一歩を踏み出せます。
生成AIは、文章や画像などを指示に応じて作るAIのことです。個人で試すのは簡単ですが、会社として使うには、情報の扱いや責任の所在をあらかじめ決めておくと安心して広げられます。
この記事でわかること
- 最初の30日を週ごとに分けた、具体的な進め方
- 会社として決めておきたいこと(ツール、設定、利用ルール、入力してはいけない情報)
- 試した結果から「広げる・続ける・やめる」を判断する目安
なぜ「30日」で区切るのですか?
生成AIの導入は、検討だけが長引くと、社員が個人の判断で無料のサービスを使い始めることがあります。会社が把握していないAIの利用は「シャドーAI」と呼ばれ、情報の扱いが見えにくくなります。
一方で、準備をせずに一斉に始めると、使い方がばらばらになり、効果も測れません。そこで、1か月を一区切りにして、準備と試行と判断までを終える進め方をおすすめしています。30日で完成を目指すのではなく、次の判断をするための材料をそろえる期間と考えてください。
参考までに、総務省の「令和8年版 情報通信白書」では、生成AIを活用する方針(積極的に活用、または領域を限定して利用)と答えた日本企業は、2025年度の調査で68.9%、中小企業では58.1%とされています。多くの会社が、方針を決める段階に入っていることがうかがえます。
何から始めればよいですか? 30日の進め方
第1週:目的と担当を決める
最初に決めるのは、ツールではなく目的と担当です。
① 目的を一文で書きます。 例:「問い合わせメールの返信にかかる時間を減らし、対応の早さを上げる」「会議の議事録づくりを短くし、決定事項の共有を早める」など。目的があいまいなままだと、試した後に良し悪しを判断できません。
② 責任者と担当者を決めます。 判断する責任者(経営者や部門長)と、日々の窓口になる担当者(DX担当や総務など)を分けておくと進めやすくなります。兼任でもかまいません。
③ 試す人を集めます。 最初は3〜10人程度の小さなグループが扱いやすい規模です。前向きな人だけでなく、業務をよく知っている人にも入ってもらうと、現場で使えるかどうかの判断がしやすくなります。
④ いまの使われ方を確かめます。 すでに個人で生成AIを使っている社員がいるかを、責めない形で聞いておきます。実態がわかると、ルールづくりの出発点になります。
第2週:法人向けのツールと設定を決める
次に、会社として使うツールを決めます。製品名で選ぶより、確かめる項目を先に決めておくと比べやすくなります。
- 入力した内容の扱い: 入力した文章やファイルが、サービス側の学習に使われるか、使われない設定にできるか。保存される期間はどれくらいか。
- 管理の機能: 会社のアカウントでまとめて管理できるか。利用者の追加・削除や、利用状況の確認ができるか。
- ログイン: 多要素認証(パスワードに加えて別の方法でも本人を確かめる仕組み)が使えるか。
- 契約と規約: 利用規約、データの保存場所、問い合わせ先が確認できるか。
- 費用: 1人あたりの月額と、試す人数での総額。
個人情報保護委員会は、個人情報を含む指示文(プロンプト)を生成AIサービスに入力する場合、利用目的の範囲内かを十分に確認することや、サービス提供者がそのデータを機械学習に使わないことなどを確認するよう注意を呼びかけています。会社で使うツールは、入力内容の扱いを確かめられるものを選ぶのが基本と考えています。
あわせて、すでにお使いのメールソフトや文書作成ソフト、顧客管理のツールなどにAIの機能が付いている場合もあります。新しく契約する前に、手元のツールで使える機能を確かめておくと、費用を抑えられることがあります。
第3週:利用ルールと「入力してはいけない情報」を決める
ツールが決まったら、最低限の利用ルールを作ります。最初から完璧な規程にする必要はありません。A4で1〜2枚程度の「暫定版」から始め、試行の結果を見て直していく進め方が現実的です。
最低限入れておきたい項目は次のとおりです。
- 使ってよいツール(会社が契約したものに限る、など)
- 入力してはいけない情報(例:お客様の個人情報、取引先から預かった秘密情報、未公表の決算や人事の情報、パスワードなど)
- 出力の確認:生成AIの答えには誤りが含まれることがあります(「ハルシネーション」と呼ばれます)。社外に出すもの、判断に使うものは、人が確認してから使うと決めておきます。
- 著作権など他者の権利:生成した文章や画像を社外に出す前に、既存の作品と似ていないかを確かめます。文化庁のチェックリストでも、利用前に類似の有無を確認することが示されています。
- 困ったときの相談先
ルールの作り方は「生成AIの利用ルールの作り方(ひな形つき)」で詳しくご紹介しています。
この週の最後に、試すメンバー向けに30分〜1時間程度の説明の場を設けます。ルールの説明に加え、指示の出し方の基本(自分の立場、相手、目的、含めたい要素、文体を伝える)を共有しておくと、最初のつまずきが減ります。
第4週:小さな業務で試す
いよいよ試します。対象は、失敗しても影響が小さく、毎週くり返し発生する業務が向いています。
試しやすい業務の例:
- メールの下書き: 見積もりの依頼、丁寧なお断り、日程調整など。要点を箇条書きで渡し、下書きを作ってもらってから人が整えます。
- 文章の要約・言い換え: 長い報告を短くまとめる、硬い文章をやわらかくするなど。
- 議事録の整理: メモから決定事項と宿題を抜き出す。
- アイデア出し: 企画の切り口や見出しの候補を挙げる。
試す前に、効果を測る物差しを1〜2個決めておきます。例:「1通の返信にかかった時間」「上司の修正が入った回数」「使った人の満足度(5段階)」など。試す前の数字を少しでも記録しておくと、比べやすくなります。
期間中は、うまくいった指示文と、うまくいかなかった例を共有の場所に集めてもらいます。これが後で社内の「使い方集」になります。
30日目:効果を測って、広げるかを決める
最後に、責任者と担当者で振り返りの時間をとります。判断は次の3つのどれかにします。
- 広げる: 効果が見え、ルール違反や大きな問題がなかった。対象の部署や業務を一つずつ増やします。
- 続けて試す: 効果がはっきりしない、または使い方にばらつきがある。業務や指示の出し方を変えて、もう1か月試します。
- やめる・切り替える: 業務に合わなかった。別の業務を選び直します。業務の選び方は「AIを使う業務の選び方」をご覧ください。
「やめる」も立派な結論です。合わない業務がわかったこと自体が、次の判断の材料になります。
つまずきやすい点はどこですか?
- ツール選びに時間をかけすぎる: 比べる項目を決めたら、試せる範囲で早めに決めるほうが進みます。
- 目的が「AIを使うこと」になる: 目的は業務の改善です。「何の時間を減らしたいか」に立ち返ります。
- 出力をそのまま使う: 生成AIの答えはもっともらしく見えても誤りがあることがあります。数字や固有名詞、日付は特に確かめます。
- 一部の人しか使わない: 使い方集や短い説明会で、うまくいった例を共有すると広がりやすくなります。
- ルールを作って終わる: 試行で出た疑問をもとに、ルールを定期的に見直します。
なお、総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、AIを業務で使う「AI利用者」を含む事業者向けの考え方をまとめた指針です。2026年3月31日に公表された第1.2版では、自律的に動く「AIエージェント」の考え方や、人の判断を間に入れる仕組みの大切さが加えられています。最初の30日では全体を読み込む必要はありませんが、広げる段階で参照すると、社内ルールを見直す手がかりになります。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
ひな形
- 生成AIの利用ルール(ひな形)準備中
- 入力してはいけない情報の一覧準備中
- 業務の棚卸し表準備中
よくあるご質問
Q無料版の生成AIから始めてもよいですか?
A個人の情報収集には便利ですが、会社の業務で使う場合は、入力した内容の扱い(学習への利用や保存期間)や管理機能を確かめてから選ぶのが安心です。法人向けの契約や設定で、入力内容を学習に使わないことを確認できるものを選ぶとよいと考えています。
Q30日で全社に広げるべきですか?
A30日は、試した結果をもとに「広げるか、続けて試すか、やめるか」を決めるまでの期間として考えるのが現実的です。全社展開は、ルールと教育の準備が整ってから段階的に進めるのが進めやすい方法です。
Q担当者は専任でないといけませんか?
A兼任でも始められます。大切なのは、判断する責任者と、日々の窓口になる担当者を決めておくことです。週に数時間を確保できると、試行の記録や相談対応が回りやすくなります。
Q効果はどうやって測ればよいですか?
A試す業務ごとに、作業時間、手戻りの回数、出来上がりの品質など、試す前に測れるものを一つか二つ決めておきます。試す前と後を同じ物差しで比べると、広げるかどうかを判断しやすくなります。
この記事に出てくる用語
次の一歩
出典
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日公表)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」別添1(2023年6月2日)
- 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの活用方針等
最終確認日:2026-10-25