AIに使うデータの整え方:所在・置き場所・権限・品質・責任者
この記事の結論
AIの成果を左右するデータの準備は、「所在・置き場所・権限・品質・責任者」の5点を、最初に使う業務の範囲から順に整えると進めやすくなります。
AIを試してみたものの、答えが古い、部署によって数字が違う、見せてはいけない資料が混ざる、といった悩みの多くは、AIではなくデータの状態から生じます。この記事では、AIに使うデータを整える手順と、確かめておきたい点を整理します。
この記事でわかること
- AIにとってデータの状態が大切な理由
- データを整える5つの観点(所在・置き場所・権限・品質・責任者)
- 小さな範囲から始める手順と、つまずきやすい点
なぜデータの準備が大切なのですか?
AIは、学習や回答のたびにデータを使います。社内の資料を探して答える仕組み(RAG)でも、売上や在庫を予測する仕組みでも、もとになるデータが古かったり誤っていたりすれば、答えも誤ります。
AIセーフティ・インスティテュート(AISI)の「データ品質マネジメント・ガイドブック」は、データの品質が低いと誤った結果を導き出す可能性が高くなり、誤った意思決定や行動につながることがあると整理しています。AIでは大量のデータを使うため、データの品質の重要性が一層増しているとも述べています。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」も、AIを業務で使う「AI利用者」が取り組む事項として、正確性や、必要な場合には最新性が担保されたデータを入力することを挙げています。データの準備は、AIを安全に使うための土台でもあります。
何から整えればよいですか?
データの準備は、次の5つの観点で考えると抜けが少なくなります。
| 観点 | 確かめること | よくある状態 |
|---|---|---|
| 所在 | どの業務のデータが、どこに、どんな形であるか | 担当者の手元のファイルにしかない |
| 置き場所 | AIから参照する場所をどこにするか | 同じ資料が複数のフォルダにある |
| 権限 | 誰が見られて、誰が直せるか | 退職者や異動者の権限が残っている |
| 品質 | 正しいか、新しいか、そろっているか | 旧版と新版が混ざっている |
| 責任者 | 中身の正しさと更新を誰が担うか | 誰に聞けばよいかわからない |
① 所在:どこに何があるかを書き出す
最初に、AIを使う業務に必要なデータが、どこにあるかを一覧にします。
- 対象の業務を先に決める:会社のデータすべてを洗い出そうとすると、終わりが見えなくなります。業務の棚卸し(業務の棚卸し表)で候補に挙がった業務から始めます。
- 形を区別する:表計算のファイルや業務システムの表のような「構造化データ」と、規程・議事録・メールのような「非構造化データ」では、整え方が違います。
- 一覧に残す:データの名前、置き場所、形式、担当部署、更新の頻度を一覧にすると、後から探しやすくなります。社内のデータの目録(データカタログ)の第一歩です。
② 置き場所:AIが参照する場所を決める
次に、AIから参照する場所を決めます。
- 正本を一つにする:同じ規程が複数の場所にあると、古い方を参照することがあります。「この場所にあるものを正しいものとする」と決めます。
- 会社が管理できる場所にする:個人のパソコンや、会社が把握していないサービスに置かれたデータは、AIの対象にしないことを基本にします。
- 画像だけの資料に注意する:スキャンしたPDFなど、文字として読み取れない資料は、文字を読み取れる形にしておきます。
③ 権限:誰が見られるかを確かめる
AIは、参照できるデータの中から答えを作ります。そのため、元のデータの閲覧権限を、AIの答えにも引き継げるかが大切になります。
- 権限の一覧を見直し、退職者や異動者の権限を外します。
- 人事・給与・顧客の個人情報など、機密性の高いデータは、権限の設計が整うまで対象から外す方法もあります。
- 総務省の「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」は、AIの提供者の対策として、RAG用のデータへの参照権限を、利用者や役割に応じて適切に設定することを挙げています。社内でRAGを作る場合の参考になります。
④ 品質:正しさ・新しさ・そろい方を確かめる
品質は、使う目的に照らして確かめます。AISIのガイドブックは、目的に合わせて考えること、品質と費用の釣り合いを考えること、エラーの発生を受け入れ完璧を求めないことなどを原則に挙げています。
- 正しさ:数字や固有名詞に誤りがないか。誤りがあると困る項目から確かめます。
- 新しさ:改定日や更新日がわかるか。廃止した資料が残っていないか。
- そろい方:同じ取引先や商品が、部署ごとに違う名前で登録されていないか。取引先や商品などの基本となるデータ(マスタデータ)をそろえると、集計や検索の精度が上がります。
- 情報を添える:作成日、改定日、担当部署、対象者などの情報(メタデータ)を付けると、探す精度が上がり、根拠も示しやすくなります。
⑤ 責任者:中身と仕組みの担当を分けて決める
データの準備は、一度で終わりません。更新が止まると、AIは古い内容で答えるようになります。
- 中身の責任者:データを日々使う業務部門から、データごとに一人決めます。正しさと更新を担います。
- 仕組みの担当:情報システム部門などが、置き場所・権限・バックアップの仕組みを担います。
- 見直しの時期:定期的な見直しの時期と、廃止したデータを対象から外す手順を決めます。
中身の責任者と、仕組みの担当を分けて決めます
中身の責任者
仕組みの担当
あわせて、定期的な見直しの時期と、廃止したデータを対象から外す手順を決めます。
経済産業省の「デジタルスキル標準」は、2026年4月の改訂(ver.2.0)で、AI活用の前提となるデータの整備・管理・活用を担う役割の重要性が高まっているとして、「データマネジメント」の人材の類型を新しく設けています。データの責任者の役割を考えるときの参考になります。
どんな順番で進めればよいですか?
① 使う業務を一つ決めます。 効果を確かめやすく、データが比較的まとまっている業務から始めます(「AIを使う業務の選び方」参照)。
② 必要なデータを一覧にします。 所在・形式・担当部署・更新の頻度を書き出します。
③ 対象から外すデータを決めます。 個人情報や取引先から預かった秘密情報など、扱いに条件のあるデータを分けます。入力してはいけない情報の一覧(入力してはいけない情報の一覧)の区分を使うと判断がそろいます。
④ 置き場所と権限を整えます。 正本の場所を決め、権限を見直します。
⑤ 品質を確かめて直します。 旧版の削除、名前のそろえ、改定日の付与などを行います。
⑥ 小さく試して確かめます。 実際にAIで使い、誤った答えの原因がデータにないかを確かめます。原因がわかれば、データの側を直します。
⑦ 責任者と見直しの時期を決めて、範囲を広げます。 同じ手順で、次の業務のデータを加えていきます。
つまずきやすい点はどこですか?
- 全社のデータ整備から始めてしまう:範囲が広すぎて、成果が見えないまま負担だけが増えます。業務の単位で始めると進めやすくなります。
- 権限の見直しを後回しにする:AIの答えに、本来見られない情報が混ざるおそれがあります。対象を広げる前に、権限の異なる複数のアカウントで試して確かめます。
- 個人情報の扱いを確かめない:個人情報を含むデータを使う場合は、利用目的の範囲内か、使うサービスで入力した情報がどう扱われるかを確かめます。個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合の注意点を示しています(「生成AIと個人情報の扱い」参照)。
- 更新の担当が決まっていない:最初は整っていても、資料の改定や組織の変更が重なると古くなっていきます。責任者と見直しの時期を決めておきます。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
ひな形
- 業務の棚卸し表準備中
- 入力してはいけない情報の一覧準備中
よくあるご質問
Q社内のデータをすべて整えてからでないと、AIは使えませんか?
Aすべてを先に整える必要はありません。最初に使う業務を決め、その業務に必要なデータから整えると、手間を抑えながら効果を確かめられます。範囲を広げるときに、同じ手順で対象を足していきます。
Qデータの責任者は、情報システム部門が担えばよいですか?
A置き場所や権限の仕組みは情報システム部門が担い、データの中身の正しさや更新は、そのデータを日々使う業務部門が担う分け方がよく見られます。業務ごとに中身の責任者を一人決め、仕組みの担当と連携する形にすると、判断が早くなります。
Qデータの品質は、どこまで高めればよいですか?
A使う目的によって必要な水準は変わります。AIセーフティ・インスティテュートのデータ品質のガイドブックも、目的に合わせて考えること、品質と費用の釣り合いを考えること、完璧を求めないことを原則に挙げています。目的に照らして、誤りがあると困る項目から確かめます。
Q個人情報を含むデータは、AIに使ってもよいですか?
A使えるかどうかは、取得したときに特定した利用目的の範囲内か、使うサービスで入力した情報がどう扱われるかなどで変わります。個人情報保護委員会の注意喚起などを確かめ、判断に迷う場合は社内の担当部署や専門家に相談します。
関連する法令・判例・指針(参考情報)
- 法令
個人情報保護法 第17条(利用目的の特定)
個人情報を取り扱うときは、利用の目的をできる限り特定しなければなりません。利用目的を変更できるのは、変更前の目的と関連性があると合理的に認められる範囲までです。
個人情報の保護に関する法律・平成15年法律第57号 e-Gov 法令検索で開く
- 法令
個人情報保護法 第23条(安全管理措置)
個人情報取扱事業者は、取り扱う個人データの漏えい・滅失・毀損の防止その他の安全管理のために、必要かつ適切な措置を講じなければなりません。
個人情報の保護に関する法律・平成15年法律第57号 e-Gov 法令検索で開く
- 指針
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版(2026年3月31日))
AIを安全・安心に活用するため、AIの開発・提供・利用に関わる事業者が取り組む事項をまとめた指針です。事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて示しています。拘束力のない文書で、状況の変化に応じて更新されています。
- 指針
経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準」(ver.2.0(2026年4月))
すべてのビジネスパーソンが身につけたい知識やスキルを示す「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割と習得すべきスキルを示す「DX推進スキル標準」からなる指針です。
法令は2026年10月26日時点の内容です。要旨は編集部が平易にまとめたもので、条文・判決・指針の全文ではありません。個別の事案への当てはめは、弁護士などの専門家にご確認ください。表記の決まりは関連する法令・判例・指針(凡例)をご覧ください。
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出典
- AIセーフティ・インスティテュート「データ品質マネジメント・ガイドブック」日本語訳サマリ(2025年3月31日)
- 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編
- 総務省「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」の公表(2026年3月27日)
- 経済産業省「デジタルスキル標準」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
最終確認日:2026-10-26