AI活用の方針と1〜3年の計画のつくり方:経営の目標から逆算する
この記事の結論
AI活用の方針は、経営の目標とつなげて「何のために・どこで・何を守って」使うかを1枚にまとめます。計画は、いまの状態と目指す姿の差を7つの柱で見える形にし、1〜3年を段階に分けて組み立て、半年ごとに見直すと進めやすくなります。
AIの取り組みが「ツールを入れたが広がらない」「部署ごとにばらばらに進んでいる」という状態になるのは、多くの場合、会社としての方針と順番が決まっていないことが原因です。この記事では、方針の書き方と、1〜3年の計画の組み立て方を順にご紹介します。
この記事でわかること
- AI活用の方針に書いておく5つの項目
- 経営の目標から逆算して、1〜3年の計画を組み立てる手順
- 計画を見直し続けるための仕組みと、よくある失敗
なぜ「方針」と「計画」を分けて考えるのですか?
方針は「何のために、どの考え方でAIを使うか」を示すもので、数年は大きく変えない土台です。計画は「いつまでに、何を、どの順番で進めるか」を示すもので、状況に合わせて直していくものです。
二つを分けておくと、AIの製品や制度が変わっても、方針はそのままで計画だけを直せます。反対に、方針がないまま計画だけを作ると、目新しいツールが出るたびに計画が揺れ、現場が何を優先すればよいかわからなくなりがちです。
方針と計画の違い
- 方針何のために、どの考え方でAIを使うか。数年は大きく変えない土台です
- 計画いつまでに、何を、どの順番で進めるか。状況に合わせて直していくものです
二つを分けておくと、AIの製品や制度が変わっても、方針はそのままで計画だけを直せます。
経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、DX経営に求められる視点の一つとして「経営ビジョンとDX戦略の連動」を挙げています。AIの方針と計画も、デジタル化の取り組みの一部として、経営の目標とつなげて考えると位置づけが明確になります。
方針には何を書けばよいですか?
方針は、社員が読んで判断に使えるように、A4で1〜2枚程度にまとめると扱いやすくなります。次の5つの項目を目安にしてください。
① 目的:何のためにAIを使うのか
「業務の時間を減らし、お客様への対応を早くする」「技術やノウハウを属人化させずに残す」など、経営の目標や課題とつながる言葉で書きます。「AIを活用する」だけでは、何を優先すべきかが決まりません。
② 重点の領域:どこから使うのか
社内の業務の効率化、お客様向けのサービス、製品の開発など、力を入れる領域と、当面は対象にしない領域を書きます。対象にしない領域も書いておくと、判断がぶれにくくなります。
③ 守ること:何に気をつけて使うのか
個人情報や秘密情報の扱い、出力の確認、著作権への配慮など、AIを使ううえでの基本の約束を書きます。細かな手順は、別に定める利用ルールに任せます。進め方は「生成AIの利用ルールの作り方」で詳しくご紹介しています。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、AIガバナンスの目標(自社の取り組み方針。「AIポリシー」など呼び方は各社に委ねられています)を、会社の存在意義や理念・ビジョンといった経営上の目標と整合させて設定することを示しています。方針の「目的」と「守ること」は、この考え方に沿って一緒に考えると、つながりのある文書になります。
④ 体制:誰が進め、誰が決めるのか
方針の責任者(経営陣の一人)、推進役、相談の窓口を書きます。体制のつくり方は「AI推進の体制のつくり方」でご紹介しています。
⑤ 測り方:どうなったら前に進んだと言えるのか
作業時間、対応の早さ、利用している社員の割合など、進み具合を確かめる物差しを2〜3個決めます。数字の選び方は「AIの効果の測り方」が参考になります。
1〜3年の計画はどう組み立てればよいですか?
計画は、次の5つの手順で組み立てると、経営の目標とのつながりを保ったまま具体化できます。
① 経営の目標と課題を確かめる
中期の経営計画や、経営者が重視している課題を確かめます。「人手が足りない」「受注から納品までが長い」「ベテランの退職で技術が途切れる」といった課題のうち、AIが役に立ちそうなものを2〜3個に絞ります。
② いまの状態を把握する
AIの準備状況を、7つの柱(戦略/ユースケースと効果/データ/基盤とセキュリティ/人材/組織と文化/ガバナンスと法令)で確かめます。柱ごとに「いまどの段階か」を見ると、どこが足を引っ張っているかがわかります。
あわせて、社内でAIがすでにどこで、どのように使われているかを把握します。部署ごとに個人の判断で使われていることもあるため、短いアンケートや聞き取りで集めると全体が見えます。
③ 目指す姿を決める
1年後・3年後に、どの業務で、どの程度AIが使われている状態を目指すかを書きます。デジタルガバナンス・コード3.0は、課題ごとに指標を用いて目指すべき姿(To be)と現在の姿(As is)の差を定量的に把握し、戦略を見直していくことを示しています。差が大きい柱から順番を考えると、優先順位がつけやすくなります。
④ 取り組みを段階に分ける
差を埋める取り組みを、時間の順に並べます。データの整備や人材の育成のように時間がかかるものは早めに始め、業務での試行と並べて進めます。対象の業務の選び方は「AIを使う業務の選び方」でご紹介しています。
⑤ 指標と見直しの時期を決める
取り組みごとに、確かめる指標と確認の時期を決めます。指標は、経営の目標につながるもの(売上、利益、対応の件数など)と、取り組みの進み具合を示すもの(試行の件数、研修を受けた人の数など)の両方を置くと、途中の状況も説明しやすくなります。
1年目・2年目・3年目は、それぞれ何をしますか?
会社の状況によって変わりますが、次のように段階を分けると考えやすくなります。
1年目:土台をつくり、小さく試す
- 方針と利用ルールを定め、社員に周知する
- 責任者・推進役・相談の窓口を決める
- 効果の見えやすい業務で、試行を2〜3件行う
- 全社員向けの基本の研修を行う
2年目:うまくいった使い方を広げる
- 試行で効果が確かめられた使い方を、ほかの部署にも広げる
- 必要なデータの整理や、社内システムとの連携を計画的に進める
- 推進役を部署ごとに置き、使い方の共有を続ける
- 費用と効果を比べ、続けるもの・止めるものを決める
3年目:仕組みとして定着させる
- AIを前提に、業務の手順や役割分担を見直す
- 新しく入る社員の研修や、評価の仕組みにAIの活用を組み込む
- お客様向けのサービスや、新しい事業での活用を検討する
- 方針そのものを見直し、次の3年の計画につなげる
2年目・3年目は、最初から細かく決めすぎないことが大切です。1年目は具体的に、2年目・3年目は方向を示す程度にとどめ、見直しのたびに具体化します。
1〜3年の段階の目安
会社の状況によって変わります。1年目は具体的に、2年目・3年目は方向を示す程度にとどめ、見直しのたびに具体化します。
計画はどう見直していけばよいですか?
AIの製品や制度は変化が速いため、一度作った計画を固定せずに見直す仕組みを持っておきます。
AI事業者ガイドラインは、「環境・リスク分析」「ゴール設定」「システムデザイン」「運用」「評価」のサイクルを継続的に回すアジャイル・ガバナンスの考え方を示しています。計画の見直しも、この流れに沿うと進めやすくなります。
① 四半期ごと:取り組みの進み具合と指標を確かめ、遅れている理由を話し合う
② 半年ごと:試行の結果、費用、社内の声をふまえて、計画の順番や対象を直す
③ 年に1回:経営の目標の変化、制度の動き、7つの柱の状態をふまえて、方針も含めて見直す
制度の動きとしては、AI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が、AIを事業活動で活用しようとする者を「活用事業者」とし、積極的な活用による事業活動の効率化・高度化に努めることと、国や地方公共団体の施策に協力することを定めています(第7条)。国の人工知能基本計画は、令和8年7月14日に閣議決定された版が内閣府のページに掲載されています。年に1回の見直しの際に、こうした国の動きも確かめておくと安心です。法律の要点は「AI法と企業の対応」でまとめています。
よくある失敗はどんなものですか?
- ツールの導入が目的になる: 方針の「目的」が経営の課題とつながっていないと、導入した後の評価ができません。
- 計画が細かすぎる: 3年分を細かく決めると、変化に合わせて直すことが難しくなります。先の年は方向にとどめます。
- データと人材の準備が後回しになる: 試行がうまくいっても、広げる段階でデータや人材が足りずに止まることがあります。1年目から並べて進めます。
- 担当者だけで作る: 経営陣が関わらない方針は、予算や人の配置の判断につながりにくくなります。
- 見直しの時期を決めていない: 作った計画が棚に置かれたままになります。最初から確認の時期を決めておきます。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
ひな形
- 業務の棚卸し表準備中
ガイド
よくあるご質問
QAIの方針は、計画より先に作るべきですか?
A方針は計画の土台になるため、先に短くまとめておくと計画が立てやすくなります。ただし、最初から完成させる必要はありません。1枚の方針で始め、計画づくりや試行の中でわかったことを反映して直していく進め方が現実的です。
Q3年先のAIの姿は読めないのに、3年の計画を立てる意味はありますか?
A3年の計画は、技術の予測ではなく、経営の目標に向けて順番を決めるためのものです。データの整備や人材の育成のように時間がかかる取り組みを早めに始められる点に意味があります。2年目・3年目は大まかな方向にとどめ、見直しのたびに具体化します。
Q中小企業でも、方針と計画は文書にしたほうがよいですか?
A規模にかかわらず、短い文書にしておくことをおすすめします。社員が判断に迷ったときの拠り所になり、取引先や金融機関に取り組みを説明するときにも使えます。分量は会社の規模に合わせて小さくてかまいません。
Q計画の見直しは、どのくらいの間隔で行えばよいですか?
A半年に1回程度の見直しと、四半期ごとの進み具合の確認を組み合わせる例が考えられます。AIの製品や制度の変化が大きいときは、時期を待たずに見直します。
関連する法令・判例・指針(参考情報)
- 法令
AI推進法 第7条(活用事業者の責務)
AIを事業活動で活用しようとする者(活用事業者)は、AIの活用による事業活動の効率化・高度化や新産業の創出に努めるとともに、国と地方公共団体が行う施策に協力しなければならないとしています。
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律・令和7年法律第53号 e-Gov 法令検索で開く
- 指針
内閣府(人工知能戦略本部)「人工知能基本計画」(2026年7月14日閣議決定(初回は2025年12月23日))
AI推進法第18条にもとづいて政府が定める、AIの研究開発と活用の推進に関する基本的な計画です。施策の基本的な方針と、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策を示しています。
- 指針
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版(2026年3月31日))
AIを安全・安心に活用するため、AIの開発・提供・利用に関わる事業者が取り組む事項をまとめた指針です。事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて示しています。拘束力のない文書で、状況の変化に応じて更新されています。
- 指針
経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~」(2024年9月19日)
企業のDXの推進に向けて、経営者に求められる対応をまとめたものです。全体像を「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」として整理しており、DX認定の基準にもなっています。
法令は2026年10月26日時点の内容です。要旨は編集部が平易にまとめたもので、条文・判決・指針の全文ではありません。個別の事案への当てはめは、弁護士などの専門家にご確認ください。表記の決まりは関連する法令・判例・指針(凡例)をご覧ください。
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出典
- 人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(e-Gov法令検索)
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)
- 経済産業省 デジタルガバナンス・コード
- 経済産業省 デジタルガバナンス・コード3.0(PDF)
- 内閣府 人工知能基本計画
最終確認日:2026-10-26