AI推進の体制のつくり方:横断の会議体・推進役・相談窓口
この記事の結論
AI推進の体制は、①経営陣の責任者、②部署をまたぐ会議体、③全体をまとめる推進役と部署ごとの推進役、④相談と事故の窓口の4つで組み立てると動きやすくなります。既存の会議や窓口を生かし、会社の規模に合わせて小さく始めます。
AIの活用が「一部の詳しい人だけが使っている」「部署ごとにルールがばらばら」という状態にとどまるのは、多くの場合、進める人と決める場が決まっていないためです。この記事では、体制の組み立て方と、役割ごとの仕事の中身をご紹介します。
この記事でわかること
- AI推進の体制を組み立てる4つの要素と、それぞれの役割
- 推進役の選び方と、相談窓口・事故の窓口の運び方
- 会社の規模に合わせた体制の例と、よくある失敗
なぜ体制を決める必要があるのですか?
AIの活用は、一つの部署だけでは進みにくい取り組みです。業務を知る現場、システムやセキュリティを担う部署、契約や情報の扱いを確かめる管理部門、予算と優先順位を決める経営陣が、それぞれ関わります。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、AIガバナンスを効果的な取り組みにするうえで経営層の責任は大きく、リーダーシップを発揮することが重要だとしています。また、経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」は、望ましい方向性として、DXを推進するために組織上に位置づけられた組織を持ち、その組織が事業部門と連携・対話して全社を巻き込むこと、経営者から現場まで各人が主体的に動けるような役割と権限を定めることを挙げています。
体制を決めることは、誰が進め、誰が決め、誰に相談すればよいかを社内にはっきり示すことでもあります。
体制はどう組み立てればよいですか?
① 経営陣の責任者
経営陣の一人を、AI活用の責任者にします。役割は次のとおりです。
- 方針と計画を承認し、社内に示す
- 予算と人の配置を決める
- 会議体の議長として、優先順位と、続ける・止めるを判断する
責任者が経営陣でないと、部署をまたぐ調整や予算の判断が進みにくくなります。方針と計画のつくり方は「AI活用の方針と1〜3年の計画のつくり方」でご紹介しています。
② 部署をまたぐ会議体
現場の部署、情報システム、法務・総務・人事などの管理部門の代表が集まる場です。月に1回程度、次のことを話し合います。
- 試行の進み具合と結果、広げるかどうか
- 利用ルールの見直しと、相談窓口に寄せられた論点
- 新しいツールやサービスを使うかどうか
- 事故や、ヒヤリとした事例の共有と対策
新しい会議を作らず、既存の経営会議や部長会の議題に加える形でもかまいません。
③ 推進役(全体と部署ごと)
全体の推進役は、会議体の事務局として、試行の計画、使い方の共有、研修の企画、記録のとりまとめを担います。社内でAIの取り組みを専門に進める組織(センター・オブ・エクセレンス)を置く会社もありますが、最初は1〜2人の兼務でも始められます。
部署ごとの推進役は、各部署で使い方を試し、困りごとを集め、うまくいった使い方を共有します。部署の中で「まず聞ける人」がいると、使い方が広がりやすくなります。
④ 相談の窓口と、事故の窓口
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)」は、AIガバナンスを始めるときの準備として、次の点を挙げています。
- 社内のAIの利用状況を把握する仕組み: 申請や定期的なアンケート・聞き取りで、どの部署が、どの目的で、どのAIを、どのデータで使っているかを把握する
- リスクの相談の体制: 現場で足りない知識を相談できる窓口を設け、基準を決めて、窓口に相談する場合と自分で確かめればよい場合を分ける
- 事故の報告の体制: 事故が起きたときにすぐ報告できる窓口を決め、社内外への説明や報告の流れまで事前に考え、予行演習をしておく
- 扱うAIの特性に合わせたルールの策定と運用
あわせて手引きは、既存の体制があれば、AI活用のために新しく体制を作る必要があるとは限らないとしています。情報セキュリティの事故の窓口や、法務の相談の窓口がすでにあれば、そこにAIの相談を加える形が考えられます。
AI推進の体制の4つの要素
- 経営陣の責任者方針と計画の承認、予算と人の配置、続ける・止めるの判断
- 部署をまたぐ会議体現場・情報システム・管理部門の代表が、月に1回程度話し合う
- 推進役全体の推進役が事務局を担い、部署ごとの推進役が使い方を広げる
- 相談と事故の窓口既存の窓口があれば、そこにAIの相談を加える形も考えられます
会議体は、新しく作らず、既存の経営会議や部長会の議題に加える形でもかまいません。
推進役はどう選び、どう支えればよいですか?
選ぶときの目安
- 業務をよく知り、現場の困りごとを自分の言葉で説明できる
- 部署をまたいで話ができ、相談しやすい
- 新しいことを試し、結果を記録して共有できる
- 技術に詳しいかどうかは、後から補える
支えるための工夫
- 推進役の仕事にあてる時間を、業務の一部として認め、どのくらいの時間をあてるかを上司と決めておく
- 推進役どうしが集まり、使い方や困りごとを共有する場を設ける
- 学ぶ機会(研修、社外の勉強会)を用意する
- 推進役の取り組みを、評価の場面でも見えるようにする
人材の育成には、経済産業省と情報処理推進機構(IPA)の「デジタルスキル標準」が参考になります。令和8年4月に公表されたver.2.0では、DXを推進する人材の類型として、ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、データマネジメント(新設)、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティの6つが示されています。すべての役割を社内でそろえる必要はなく、足りない役割は外部の支援で補う考え方もあります。
相談窓口は、どう運べばよいですか?
相談窓口は、利用ルールを「守らせる場」ではなく、安心して使うための「聞ける場」として運ぶと、相談が集まりやすくなります。
① 受け付ける方法を一つにする: 社内のチャットの専用の場所、メールのアドレス、申請の画面など、どこに聞けばよいかを一つにします。
② 自分で確かめればよい場合を示す: 手引きの考え方のとおり、すべてを窓口に寄せると負担が大きくなります。「この条件なら相談なしで使ってよい」という目安を示します。
③ 答えを公開する: よくある相談と答えを社内に公開し、利用ルールの見直しにもつなげます。
④ 会議体に報告する: 相談の件数や内容を会議体で共有し、ルールや研修を直す材料にします。
社員が会社の把握していないAIのサービスを業務で使う状態(シャドーAI)は、相談しにくさから生まれることもあります。相談しやすい窓口は、こうした状態を減らすことにもつながります。
会社の規模に合わせると、どのような形になりますか?
少人数の会社の例
- 責任者:社長または役員
- 会議体:経営会議の議題に、月に1回AIの項目を入れる
- 推進役:兼務の1人
- 窓口:推進役が相談を受け、事故は既存の連絡の流れに乗せる
部署が複数ある会社の例
- 責任者:担当の役員
- 会議体:部署の代表と管理部門が集まる月例の会議
- 推進役:全体の推進役(兼務または専任)と、部署ごとの推進役
- 窓口:相談の専用の窓口と、情報セキュリティの事故の窓口にAIの事故を加える
最初は小さな形で始め、活用が広がって相談や試行が増えてから、専任の担当や専門の組織を置くかを考えると無理がありません。
よくある失敗はどんなものですか?
- 推進役に任せきりにする: 経営陣が関わらないと、予算や部署をまたぐ判断が止まります。
- 推進役の時間を確保しない: 本来の業務に追われ、推進の仕事が後回しになります。
- 窓口を「禁止する場」にする: 相談すると止められると感じると、相談が来なくなり、会社が把握しない使い方が増えます。
- 会議体が報告の場だけになる: 続ける・止める・広げるを決める場にします。
- 事故の連絡の流れを決めていない: 事故が起きてから慌てることになります。予行演習もしておきます。
チェックリスト
関連するひな形・ガイド・用語
ひな形
- 生成AIの利用ルール(ひな形)準備中
- 業務の棚卸し表準備中
ガイド
よくあるご質問
QAI推進のための専任の部署は、最初から作るべきですか?
A最初から専任の部署を作る必要はありません。総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)」も、既存の体制があれば、AI活用のために新しく体制を作る必要があるとは限らないとしています。既存の会議や窓口に役割を加える形で始め、活用が広がってから専任の担当を置くかを考えます。
Q推進役には、どのような人が向いていますか?
AAIの技術に詳しいことよりも、業務をよく知り、部署をまたいで話ができることが大切です。新しいことを試すのを楽しめる人、試したことを記録して共有できる人が向いています。技術の面は、情報システムの担当や外部の支援で補えます。
Q相談窓口には、どのような相談が来ますか?
A「この情報を入力してよいか」「このツールを使ってよいか」「出力をそのまま社外に出してよいか」といった、利用ルールの解釈に関する相談が多くなりがちです。よくある相談と答えを社内に公開しておくと、同じ相談が減り、窓口の負担も軽くなります。
Q小さな会社でも、会議体は必要ですか?
A人数が少ない会社では、新しい会議体を作らず、経営会議や部長会の議題の一つとして、月に1回程度AIの取り組みを確かめる形でも十分に機能します。大切なのは、決める場と決める人がはっきりしていることです。
関連する法令・判例・指針(参考情報)
- 法令
AI推進法 第7条(活用事業者の責務)
AIを事業活動で活用しようとする者(活用事業者)は、AIの活用による事業活動の効率化・高度化や新産業の創出に努めるとともに、国と地方公共団体が行う施策に協力しなければならないとしています。
人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律・令和7年法律第53号 e-Gov 法令検索で開く
- 指針
総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版(2026年3月31日))
AIを安全・安心に活用するため、AIの開発・提供・利用に関わる事業者が取り組む事項をまとめた指針です。事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて示しています。拘束力のない文書で、状況の変化に応じて更新されています。
- 指針
経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0 ~DX経営による企業価値向上に向けて~」(2024年9月19日)
企業のDXの推進に向けて、経営者に求められる対応をまとめたものです。全体像を「DX経営に求められる3つの視点・5つの柱」として整理しており、DX認定の基準にもなっています。
- 指針
経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準」(ver.2.0(2026年4月))
すべてのビジネスパーソンが身につけたい知識やスキルを示す「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割と習得すべきスキルを示す「DX推進スキル標準」からなる指針です。
法令は2026年10月26日時点の内容です。要旨は編集部が平易にまとめたもので、条文・判決・指針の全文ではありません。個別の事案への当てはめは、弁護士などの専門家にご確認ください。表記の決まりは関連する法令・判例・指針(凡例)をご覧ください。
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出典
- 経済産業省 AI事業者ガイドライン(第1.2版)
- 総務省・経済産業省 AI事業者ガイドライン活用の手引き(案)(PDF)
- 経済産業省 デジタルガバナンス・コード3.0(PDF)
- 経済産業省 デジタルスキル標準
最終確認日:2026-10-26