広げる柱:人材

AIの社内研修と推進役の育て方:全社員・管理職・推進役の3層で考える

執筆:桐谷 彰人更新 2026-10-26制度の最終確認 2026-10-26出典 6件図解 2点

この記事の結論

AIの社内研修は、「全社員」「管理職」「推進役」の3層に分け、全社員には安全な使い方の基本、管理職には任せ方と確かめ方、推進役には業務への組み込み方を伝えると、使う人が増え、使い方が定着しやすくなります。

ツールを導入しても、使う人が一部にとどまることがあります。使い方がわからないことに加えて、「何に使ってよいか」「どこまで任せてよいか」がわからないことも、利用が広がらない理由になりがちです。この記事では、層ごとの研修の内容と進め方、推進役の育て方を整理します。

この記事でわかること

  • 研修を3つの層に分ける理由と、層ごとに伝えること
  • 研修の進め方と、定着させる工夫
  • 推進役の選び方と育て方

なぜ研修が必要なのですか?

総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン」は、各主体が社会と連携して取り組む事項の一つに「教育・リテラシー」を挙げています。組織の中でAIに関わる人が、AIを正しく理解し、社会的に正しく使うための知識・リテラシー・倫理観を持てるよう、必要な教育を行うことが期待されるとしています。生成AIの広がりで、AIと人の作業の分け方が変わっていくことを想定し、教育・リスキリングを検討することも挙げられています。

経済産業省とIPAの「デジタルスキル標準」は、すべてのビジネスパーソンが身につけたい知識・スキルを示す「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割と習得すべきスキルを示す「DX推進スキル標準」の2つで構成されています。生成AIの登場をふまえた見直しが重ねられ、2026年4月のver.2.0では、AI活用の前提となるデータの整備・管理・活用を担う「データマネジメント」の類型が新しく設けられました。

「全員が身につけること」と「推進する人が身につけること」を分けて考えるこの構成は、社内研修を設計するときにも役立ちます。

3つの層には、それぞれ何を伝えればよいですか?

層ねらい主な内容
全社員安全に使い始められる基本の仕組み、社内ルール、入力してはいけない情報、出力の確かめ方、業務での使い方の例
管理職部下に任せ、確かめられる任せてよい業務の見極め、確認の手順、評価や働き方への影響、相談の受け方
推進役業務に組み込み、広げられる業務の棚卸し、使い方の型づくり、効果の測り方、社内での共有、ツールの設定の理解

3つの層に伝えること

全社員
基本の仕組み・社内ルール・出力の確かめ方
安全に使い始められる
管理職
任せてよい業務の見極め・確認の手順
部下に任せ、確かめられる
推進役
業務の棚卸し・使い方の型づくり・効果の測り方
業務に組み込み、広げられる

① 全社員:安全に使い始めるための基本

全社員向けには、次の内容を短くまとめて伝えます。

  • 生成AIの仕組みと特性:もっともらしい誤り(ハルシネーション)を含むことがあること。IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」の解説書も、AIの利用についての教育として、AIが指示を正確に反映した結果を出すとは限らないこと、ハルシネーションがあることを理解すること、AIへの過剰な依存に気をつけることを挙げています。
  • 社内ルール:使ってよいツール、入力してはいけない情報、出力を確かめてから使うこと、相談の窓口(「生成AIの利用ルールの作り方」参照)。
  • 個人情報の扱い:個人情報保護委員会の注意喚起は、一般の利用者に向けて、入力した個人情報が学習に使われて出力されるおそれや、応答に不正確な個人情報が含まれるおそれを挙げています。
  • 著作権の基本:文化庁の「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」は、AIを業務で使う会社に、従業員の著作権制度の理解を確かめておくことが必要としています。生成物の利用が既存の作品の権利を侵害するかという問題と、生成物が著作物になるかという問題を混同しないことも挙げられています(「生成AIと著作権」参照)。
  • 自社の業務での使い方の例:メールの下書き、議事録の要約、資料の構成づくりなど、すぐに試せる例を、実際に手を動かしながら体験します。

初心者向けの公的な資料として、総務省の「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」も、基礎知識・使い方・注意点をまとめています。

② 管理職:任せ方と確かめ方

管理職の理解が進まないと、部下は「使ってよいか」を判断できず、利用が広がりにくくなります。管理職向けには、使い方の技術より、判断の仕方を伝えます。

  • 任せてよい業務の見極め:誤りがあっても影響が小さく、人が確かめやすい業務から任せます。
  • 確認の手順:社外に出すもの、契約や判断に使うものは、誰がどこを確かめるかを決めます。
  • 評価と働き方:AIを使って短くなった時間を、どの仕事に振り向けるか。AIを使ったことで評価が下がらないことをはっきりさせると、使いやすくなります。
  • 相談の受け方:部下から「入力してしまった」と報告があったときの対応の流れを確かめます。

③ 推進役:業務に組み込み、広げる人

推進役は、各部署でAIの使い方を広げる人です。推進役向けには、より実務的な内容を扱います。

  • 業務の棚卸し:部署の業務を書き出し、AIを使える場面を探します(業務の棚卸し表)。
  • 使い方の型づくり:うまくいった指示の書き方(プロンプト)や手順を、部署で共有できる形にまとめます。
  • 効果の測り方:使う前と後で、時間や品質がどう変わったかを記録します(「AIの効果の測り方」参照)。
  • ツールの設定とリスク:承認したツールの設定、入力してはいけない情報、セキュリティの基本を、ほかの人に説明できる水準で理解します(「AIのセキュリティの基本」参照)。

どんな手順で進めればよいですか?

① 目的を決めます。 「全社員が安全に使い始められる」「各部署で業務に使う例を作る」など、研修のあとの状態を決めます。

② 社内ルールを先に整えます。 ルールがないまま研修を行うと、「結局使ってよいのか」が伝わりません。

③ 推進役を選びます。 各部署から、業務をよく知り、新しい道具を試すことに前向きな人を選びます。

④ 推進役から先に始めます。 推進役が先に使い方を身につけ、自部署の例を作ってから全社員の研修を行うと、研修の中で自社の例を示せます。

推進役から先に始める

推進役を選ぶ各部署から、業務をよく知り、新しい道具を試すことに前向きな人を選びます
推進役が先に身につける使い方を身につけ、自部署の例を作ります
全社員の研修研修の中で自社の例を示せます

⑤ 層ごとの研修を行います。 全社員向けは短く、実際に手を動かす時間を多めにします。管理職向けは、判断の仕方を話し合う形にします。

⑥ 質問と例を集めます。 研修の後に寄せられた質問と、うまくいった例を集め、社内で共有します。

⑦ 内容を見直します。 ツールや社内ルール、公的な指針は更新されます。研修の内容も定期的に見直します。

推進役は、どう育てればよいですか?

  • 役割をはっきりさせる:推進役の仕事(例を作る、質問を受ける、効果を記録する)と、使ってよい時間を決めます。本来の業務に上乗せするだけでは続きにくくなります。
  • 推進役どうしをつなぐ:部署を越えて、例や困りごとを共有する場を定期的に設けます。全社の推進を担う小さな組織(CoE)を置く会社もあります。
  • 学ぶ機会を用意する:外部の講座や公的な資料を使い、新しい機能や注意点を学び続けられるようにします。デジタルスキル標準の「DX推進スキル標準」は、推進役が目指す役割やスキルを考えるときの参考になります。
  • 成果を認める:推進役が作った例や、短くなった時間を社内で紹介し、評価にも反映させます。

チェックリスト

関連するひな形・ガイド・用語

よくあるご質問

Q研修は外部の講座を使うべきですか、社内で作るべきですか?

Aどちらにも利点があります。生成AIの基本や一般的な注意点は外部の講座や公的な資料を使い、自社の利用ルールや業務での使い方は社内で作る、という組み合わせにすると、手間を抑えながら自社に合った内容にできます。

Q管理職が研修に参加しないと、どうなりますか?

A部下がAIを使ってよいかを判断できず、現場での利用が進みにくくなることがあります。管理職には、使い方の技術よりも、任せてよい業務の見極め方と、出力を確かめる手順を伝える場を別に設けると効果的です。

Q推進役は、IT部門から選ぶべきですか?

AIT部門に限る必要はありません。業務をよく知り、新しい道具を試すことに前向きな人が向いています。各部署に一人ずつ置き、IT部門や管理部門と連携する形にすると、現場の困りごとが早く集まります。

Q研修の効果は、どう確かめればよいですか?

A受講した人数だけでなく、業務で使っている人の割合、短くなった作業の時間、寄せられた質問の内容など、業務の変化で確かめます。測り方は、AIの効果の測り方のガイドも参考になります。

関連する法令・判例・指針(参考情報)

  • 指針

    総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」(第1.2版(2026年3月31日))

    AIを安全・安心に活用するため、AIの開発・提供・利用に関わる事業者が取り組む事項をまとめた指針です。事業者を「AI開発者」「AI提供者」「AI利用者」に分けて示しています。拘束力のない文書で、状況の変化に応じて更新されています。

    発行元の公式ページで開く

  • 指針

    経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準」(ver.2.0(2026年4月))

    すべてのビジネスパーソンが身につけたい知識やスキルを示す「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割と習得すべきスキルを示す「DX推進スキル標準」からなる指針です。

    発行元の公式ページで開く

法令は2026年10月26日時点の内容です。要旨は編集部が平易にまとめたもので、条文・判決・指針の全文ではありません。個別の事案への当てはめは、弁護士などの専門家にご確認ください。表記の決まりは関連する法令・判例・指針(凡例)をご覧ください。

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次の一歩

出典

  1. 総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編
  2. 経済産業省「デジタルスキル標準」
  3. IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」解説書[組織編]
  4. 文化庁「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)
  5. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
  6. 総務省「生成AIはじめの一歩~生成AIの入門的な使い方と注意点~」

最終確認日:2026-10-26